第37話 人魚の肉【5】

徐福は、妖に対し現在の状況を洗いざらい告白した。


『赤子の娘が、もしかするとお主の角を食べてしまったかもしれぬ。お主に確認したい事は二つ、赤子がお主の角を食べているかどうかの確認方法、そして、もし食べていた場合、不老不死の呪縛を解く方法は有るか無いか?もし有るのであれば、その方法を教えて欲しい。!』


徐福の懺悔の様な告白に、美しい仙女の姿をした妖は、沈黙したまま考え込む。


『徐福様、赤子が私の角を食べたかどうかを確認するのは容易たやすき事。』


『満月の夜に、その赤子を浜辺に連れて来て下され。』


『赤子を連れて来て下されば、私がその赤子に触れまする。』


『私が触れ、その赤子が青く光れば、その赤子の中に角の霊力がある証拠でございます。』


『もし、赤子が角を食べてしまっていれば、不老不死の呪縛を解くのは困難です。』


『不老不死の呪縛を解くのは難しいですが、呪縛の効力を暫くの間、抑える事は出来まする。』


『しかし、抑える代償は大きく、お勧めはできませぬ。』


『代償とは、何じゃ。』


『呪縛を抑えるには、それと同じ生命が必要となりまする。』


『赤子の呪縛を抑える年数を、別の者が代わりに支払うのです。』


『別の者が代わりに支払うとはどういう事じゃ??。』


『赤子をもし、20歳まで普通の人間の様に成長させたいのであれば、代わりの者がその20年を肩代わりするのです。』


『つまり、自分の20年をその赤子に与えるという事です。その者の寿命が60歳だとし、その者が40歳だった場合、術を施した日に、その者は死にまする。』


『しかし、その代わり、赤子はその者に代わり20年を人間として生きる事が出来まする。』


『20歳になると、赤子の老化はとまり、その姿で永遠の生が始まりまする。』


『以前、初めてお会いした日に、お伝えしました様に、そもそも、永遠の命とは一つの罰です。』


『その者の永遠の生命いのちという罰を、減らす為には、別の者がその罪を代わりに償わなければならないのです・・・。』


『その者の為に命を投げ捨てれる覚悟がある者のみ、その禁呪は可能でございます・・・・。』


『ただもし、禁呪を実行した者、その者の余命が5年に満たない場合、禁呪をした者が死に、赤子も5歳まで成長しますが、その後5歳の子供の姿で永遠の生が始まりまする。』


『その覚悟があれば、・・・・、私は貴方様に禁呪の法を教えまする。』


『一つ注意しておきたい事がございます。赤子という者は、汚れが無い存在である為、霊力を守る器になります。もし、万が一、別の者、つまりトラや熊等の猛獣がその赤子を食べた場合、私の角をそのまま食べた事と同じです。その猛獣は、知性と永遠の命を得る事になるでしょう。』


『私が言いたいのは、赤子がもし角を食べていたとしたら、その事は誰にも伝えない事が賢明です。永遠の命という甘美な香りが、猛獣たちを呼び寄せ、赤子の命を危険にさらす事になるからです。』


『まあ、聡明なる徐福様であれば、私がこの様な事を言わずとも、総てご存じたと思いますが…。』


『話は、終わりです。もし再度、私をお呼びになりたい時は、今日私に呼びかけた様に、海に向かって私をお呼び下さい。直ぐに駆けつけますので・・。』


『それでは・・・徐福様、後日に又お会いしましょう。』


仙女の姿をした妖は、そう言うと、静かに海の奥底へ潜っていった。


妖が去って直ぐに、雨が降り始める。小雨ではあったが、海が荒れては大変だと、徐福は寝ている飽桀を揺さぶり、用件が終わった事を伝え、浜辺へ戻る様に指示をする。


飽桀は、船を漕ぎながら、3人の会話で出て来た赤子が誰を指すかを考えていた。


(・・・・。そういえば、陸信の野郎の処の子供、生まれたばかりだったなあ。アイツ、我が物顔で子供達を徐福様の家によく連れていっていたなぁ。)


(角を食べた赤子とは、あの双子のどちらかという事か・・・。赤ん坊が不老不死の霊薬とは、これは盲点だったなぁ。・・・こんな楽しみの無い島の生活を2年もさせやがって・・・。始皇帝様にその赤ん坊を連れていけば、俺は一国の王にもなれるという事だ。)


『徐福様、明日も、海にでるのですか?。』と飽桀はとぼけて徐福に聞く。


『嫌な、昨日、神仙様から新しきお告げがあってな。今日、見つからなければ霊薬探しは打ち切りにせよとじゃ。お主には、迷惑ばかりかけて、申し訳ないが、妖探しは今日で終いじゃ。』


『そうですかぃ。残念ですが、仕方ありませんね。又、何かありましたら私にお声かけ下さい。』


『徐福様と姜文様をお助けする事が、私の使命ですので・・。』と言い頭を下げる。


(やっと、俺の夢が叶えられる。こんな処、さっさとオサラバヨ。)と飽桀は心の中で舌を出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る