第32話 束の間の平穏

漁が再開された後、漁で行方不明者が出る事は無くなった。


9隻の小船のみで1ヶ月の間漁を行った。結果9隻の船は、毎日船が沈むのではと心配になるぐらい大量の魚を釣り戻って来る。漁師達の足場がないぐらいの状況であった。


まるで、漁が出来なかった時期の分を、帳尻合わせしている様に、徐福達の食糧問題は日々解決の日に向かっていったのである。


徐福達3人は、その様子を見ながらあやかしが言っていた、『お主らの船は30年の間は不漁になる事は無い事を保証する。』という言葉を思い出していた。


やがて食料問題が落ち着き、集落には活気が戻る。


漁が完全に復活する事になる日の前日、徐福の意向で尊い犠牲になった6人の追悼と、海の安全を祈る儀式が行われた。


その日が、徐福達一行の束の間の平穏の日々の始まりであったと十兵衛は煕子に伝える。


食料事情が改善された集落の中で、多くの男女が結婚し家庭を築くようになる。


人の良い指導者である徐福の元、幸せな日々が集落に訪れたのであった。


そんな中、陸信の妻風鈴も懐妊し、可愛いい女の子と男の子の双子を出産したのである。


子供が生まれた陸信は、漁をする傍らよく自分の子の子守をしていた。


徐福と姜文も陸信の子を可愛がり、陸信はよく赤ん坊の一人を連れ、二人の家に遊びに来るようになって

いた。


『陸信の家の、女の子は、お父さん似で。男の子はお母さん似じゃな。』と徐福が姜文に感想を述べる。


『双子でも性別が違うし、顔も違う、お姉さんは元気で活発、弟さんは大人しい。性格も違うみたいだし、面白いものですな。』等と、二人の会話の中にも、陸信の子供達の話題が良く出て来る様になっていた。


そんな平穏の中、姜文にも出会いの春が訪れる。相手は、不老不死の霊薬を探索する仕事についていた女性であった。


その女性は、蘭華らんかとう名であった。二人の関係が接近した背景には不老不死の霊薬の探索状況を報告に来るのが彼女であり、それを聞くのが姜文の役目であった事が大きく関係している。


姜文が彼女に興味を持ったのは、蘭華という女性の性格であった。


彼女は、頭がよく非常に真面目な性格なのだが、気が強く、時々突拍子のない行動をする面白い女性であった。


こんな事があった。徐福が酒を飲みすぎ、二日酔いで苦しんでいると、たまたま一日の予定を報告に来た彼女がそれを見つける。


『徐福様、具合悪そうですが、どうされました?。』


『蘭華殿か、いや昨日、酒を飲み過ぎてしまってな。』


『蜂蜜をお湯に溶かして飲めば、頭痛はなおりますが・・。』と、蘭華は自分の持っている蜂蜜を出し、お湯を沸かそうとしたのである。


それを見た徐福が、『そんな手間がかかるのであれば、良い。ワシが我慢すれば良いのじゃ。』と断る。


『それでは、迎え酒はどうでしょうか?もう一杯、お酒を飲んで、もう一度酔っぱらうのです・・。』


『流石に、指導者たるもの、朝から酒は・・・。』


『それでは、いっそ一思いに・・。』と、彼女は何を考えたか、徐福の部屋の酒瓶を見つけては、床に叩きつける。ガシャンガシャンと、酒の入った酒瓶が砕け、床は酒で濡れ、酒の匂いが部屋中に充満する。


『蘭華殿、何をする!。止めてくれ、止めるのじゃ。』と、突然の彼女の信じられない行動で、徐福は驚き座っていた席から立ち上がり、蘭華を慌てて止める。


『民の指導者であると自覚するものが、次の日の仕事に支障がきたすまで、酒を飲むのが悪いのです。』


『酒が無ければ、今後二日酔いをする事は有りますまい!』と徐福を叱りつけたのである。


『スマヌ、ワシが悪かった。』と徐福は、青い顔になって謝罪をしたのである。


その時、家を留守にしていた姜文が夕方に戻り、徐福に事の顛末を聞き、大笑いする。


『あの女性は、お主よりも厳しいと・・、もう、二日酔いになっても、ワシは絶対頭が痛いとは言わぬ!』と徐福は、真顔で訴えるのであった。


『蘭華殿が、この家に居れば、徐福様のダラシナサも、少しは治るかもしれませんね。』


『面白い女性だと思っていたが、そこまで骨のある女性だとは・・。』と姜文は感心したように姜文が言う。


『姜文、蘭華殿だけは、止めてくれ!ワシが早死にしてもよいのか?』と真剣に訴える徐福の顔を見て、姜文は大爆笑したのである。


そんな事がきっかけになり、姜文は蘭華という女性に興味を持ち、二人の仲には会話が生まれ、少しづつ関係が近づいていく様であった。


その集落の幸せな平穏は、ずっと続くのではないかと徐福と姜文は思っていた。


しかし、狂王が忍ばせた凶事の果実は集落の中で人知れず大きくなり、何時落ちてもおかしく無い時期に差し掛かっていたのであった。

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