第31話 戻って来た何時もの一時

あやかしを倒した3人は、船を陸地に戻し自分達の住む集落へ戻ったのであった。

3人はそのまま漁師の代表の長の家に向かい、妖を退治した事を告げる。


長は、妖という存在がいた事に先ず驚き、又それを見事退治したという徐福の言葉に更に驚いた。

妖退治の証拠として、姜文きょうぶんは長の男に妖からもらった角も見せる。


食せば不老不死となるという妖の言葉はあえて伝えず、3人だけの秘密にしたのであった。

3人は、不老不死の霊薬が平和である集落に要らぬ争いを呼び込む火種になると判断したのである。


長は、最終的に妖の角を信じたというよりも、自分が信用する3人の言葉を信じた様であった。

話が終わると早速、長と陸信は漁師達全員を集落の集会場へ集め、徐福自ら漁師達に妖を退治した事を告げ、漁の再開を望んだ。


徐福の話が終わると、その次は姜文が補足する様に話始める。話の内容は、集落の具体的な食糧事情及び徐福の作った破魔の札が、妖に致命的な傷を負わせた事実であった。


そして話の終わりに、漁師達に訴える。

『お主らの不安は当然じゃ。妖がいたと言われても、信じられんじゃろ。実際に会った私も、正直夢だったのではないかと思う、しかし我らの集落の者達の食糧は日々減っている事は現実じゃ。このまま漁を再開せずにいれば、1か月後には餓死する者が出る。』


『此処に徐福様が作った破魔はまふだの残りがある。・・・9枚じゃ。私の提案じゃが、先ずは9隻の船に乗る者にこの札を持たせ漁を再開する。その9隻が一定期間問題無ければ、前の様に漁を再開する。どうであろう?。』


『ワシと陸信の船に乗る者は、おらぬか?。3人いれば、1隻は出せる。』と、長が大声で呼びかける。

ドヨメク漁師達。数分後、一人の若者が手を挙げる。『ワシが乗る。』


『有難い、これで1隻じゃ。他の者はおらぬか?。』と陸信が長と同じように大声で訴える様に言う。

『9隻で漁をすれば、最悪でも餓死する者は出さなくてよい筈じゃ、皆の者、我々に力を貸してくれ。』と徐福が、突然砂場に両手をつけて平伏する。姜文も又、徐福にならう。


慌て、大騒ぎする漁師達。

『徐福様、姜文様、頭をお上げ下さい。』と数名の漁師達が堪らず声をあげる。


『ワシも乗ります。』『ワシもじゃ。』と船に乗る事を決意した漁師達の声があがる。

徐福の民達を救いたいという思いと、必死さが漁師達の心を動かした様であった。


最終的に、9隻の船に乗る人数より多い者が漁に出る事を了承した。

その結果に、徐福は目に涙を溜め感謝し、漁師の長と陸信はその状況に安堵したのであった。


(徐福様の直情的で突発的な行動が、人々の心を動かした。理屈ではない、言葉ではないのだ。その人柄が人の心を動かす・・。私の訴えだけでは、こうはならなかった・・。)、姜文はそんなことを思いながら、己の主君が起こした状況、小さな奇跡を冷静に分析していた。


漁師達との集会が終わり、陸信以外の漁師達はそれぞれの家に帰っていった。

最後に掃除を終えた陸信が、徐福と姜文に帰りの挨拶をしていると、一人の女性が走って集会場へやって来たと思うと、陸信へ抱き着いた。


その女性は陸信の妻、風鈴フォンリンであった。

『何じゃ、お前、私を迎えに来たのか?。家で待っていれば良いものを。』と、陸信はそう言いながらも飛びついてきた妻の身を優しく受け止める。


徐福と姜文は、少し驚いた様に二人を見つめていると、その視線に気づき陸信は妻を自分の身から離れさせ二人に紹介する。

『スミマセヌ、御見苦しい所をお見せいたしました。私の妻風鈴フォンリンでございます。』

『私の帰りが遅くなったので、心配になり迎えに来たのでしょう、風鈴、徐福様と姜文様にご挨拶せよ!』と陸信は風鈴に言い、挨拶する様に促す。


『大変失礼致しました。陸信の妻、風鈴と申します。』

夫の陸信に促され、恥ずかしそうに頭を下げる。


『陸信の奥方殿であったか!。亭主殿、陸信にはこの2週間大変世話になった。丁度良い機会じゃ、心より礼を申し上げる。奥方殿も、この2週間、気が気じゃなかったであろう。スマヌ事をした。』と、徐福は心からお礼と謝罪の弁を口にしたのであった。


『陸信がいなければ、私達は無事戻れなかったであろう。本当に感謝をしております。』と姜文も徐福の言葉に続いて、風鈴にお礼を述べる。


陸信と、風鈴の夫婦は二人の丁寧な挨拶に照れながら、頭を下げ、そして二人仲良く帰っていった。


二人が居なくなると、徐福が姜文に同情するような表情で話しかけた。

『姜文よ、お主も良い年じゃ。そろそろ、陸信の奥方の様な女性を見つけなければなるまいて・・。』

『ワシが死んだら、お主、独りじゃぞ。』


『徐福様、私に無理難題を持ってくるのは誰ですか?私だって、落ち着いた生活がしたいですよ。平穏な日々が訪れれば、嫁になってくれる女性を探しまする。』と、姜文は食事の準備をしながら徐福へ反論する。


『良縁の札でも、お主に作ってやるかのう。』


『そうそう、徐福様、あの破魔の札、よく作られましたな。私は、最初、徐福様の唯のハッタリだと・・。』


『ワシもビックリした。妖にもビックリしたが、一番驚いたのはあの札の効力じゃ。』


『エッ・・・しかし徐福様、妖には最初から強気でお話されていたではないですか?』

『あの人の悪い、笑みも、スゴイ迫力でしたよ。』


『正直、あ奴が現れた時は、そりゃ怖くて怖くて、海に飛び込んで逃げたくなったわい、だけど、・・・あ奴が海におるじゃろ。』

『本当に乗りかかった船じゃったよ。乗りかかった船だと思い、自分がビビったぐらい、あ奴をビビらせてやろうと、必死に演技をしたのじゃ。あの笑みは、ヤケクソノの笑みじゃった。』


『・・・。んん??どうした姜文。うわぁ、何をする。』


徐福が驚いたのは、姜文が突然、徐福に飲ませようと持って来た酒を、出すのを止め、自分自身で一気に飲み干したからであった。


『貴方様がそういう御方だから、私は嫁も探せないのです!貴方様を見直したと、感動していた私が愚かでした。』


『何じゃ、ワシの何が悪いのじゃ??』


徐福と姜文の何時もの一時が戻ったのであった。

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