第30話 妖(あやかし)の命ごいと不死の代償

上半身が人間の身体似ている妖は、予想していなかった事態にパニックになった。


『我の腕が、ウデが・・・ウデがぁ、』と泣き叫びながら、海中で暴れる。


『お主ら・・・。許さんぞ、我に攻撃を加えるとは・・・。』




冷静さを失った妖は、3人の乗っている船を沈めようと、力任せに船に体をぶつけようとする。その動きを冷静に見ていたのが、姜文である。姜文は、槍を投げつけた後、直ぐに弓と矢を持ち、構えていたのである。素早く、矢を射る。その速さと正確さは訓練の賜物たまものなのだろう、姜文が放った矢が妖の右目を射抜いたと思うと、続け様にほぼ同じ個所を矢が射抜いた。




『ギィャアア。』、2本の矢に射抜かれた目を苦しそうに押さえる妖。


『目が、目が、めがぁ。』、悶絶する妖めがけて、ある全ての武器を投げつけ、矢を射る姜文と陸信。


この瞬間を逃せば、自分達は殺される。誰が見ても圧倒的有利な展開は、実は妖に対する恐怖の裏返しであり、二人は無我夢中に、自分達の準備してきた武器を使い攻撃したのであった。




二人の連続攻撃を受け、妖は自分の力の限り暴れ回る。妖が暴れる度に船は揺れ、船が転覆しそうになる。揺れる度に、船を転覆させない様に必死にバランスを取る3人。




しかし、抵抗空しく、一人又、一人と海に落ちていく。船だけが運よく、沈まずに海面に浮かんでいる。




3人が海に落ちたのを見た、妖は、自分の片手を焼失させた一番憎い徐福を目指し、襲いかかろうとする。




妖の身体が徐福に覆いかぶさろうとする。徐福は決死の妖の形相を見て、自分の死を覚悟した。その時である、妖が突然苦しみ出した。




『・・・・ゲェ、ゲェ、ゲェ・・・・ゲ・・。』


妖の身体は痙攣しだし、痙攣が終わると、妖は意識を失い、力なく海面に沈んでいこうとした。


武器の刃先に塗っていた毒が、妖の身体から自由を奪ったのであった。




妖の身体が海面から姿を消そうとする時、陸信が潜り、妖の身体を支え浮上しようとした。


姜文も又、陸信と同じように潜り、妖の身体の下に入り、陸信を手助けする。


二人が力をあわせ、やっとの事で妖の身体を船上に持ち上げる。




水から離され、船上に上げられた妖は、正にまな板の上の鯉の状況になった。




船上で意識を取り戻し暴れようとするが、毒の為身体に力が入らず、妖の身体を押さえる陸信の力に抗う事が出来ない様であった。




抵抗が不可能だと妖は悟った様に、動きを止めた。


あきらめた妖は、か弱き女子の様に涙を流し命乞いを始めた。




『・・我の負けじゃ、助けてくれ。命を助けてくれれば、これから先は人間には手を出さぬ。』


『・・・助けてくれれば、30年はお主らの漁が不漁になることはない、我が保証する。』


『我は、お主らを不老不死にできるモノを持っておる。どうじゃ、不老不・・・。』と言いながら妖は堪らず号泣し始める。




片目と片手を失い、泣きながら命乞いをする妖をみて、徐福は考える。


『お主が、命を奪った者達の中には、今のお主と同じように命乞いをした者がいなかったのか?。』




『・・・いなかった。我の歌声を聞いた者は、術にかか・・、眠っている間に生気を吸ったので、苦しんだ者はいない筈じゃ。我を信じてく・・。』と、妖は感情が高ぶっている為か、途切れ途切れの言葉で涙ながらに訴えた。




徐福は、その姿を黙って見つめ、暫く考え込む。その後、考えがまとまったのか、重い門を開くように、ゆっくりと口をひらく。




『姜文、陸信、スマヌがお主ら、こ奴を海に返してやってくれ!。』




『ワシは、多くの者の命乞いをきかず、簡単に人の命を奪う男を知っている、ワシが今、こ奴を殺せば、ワシもその男になってしまう気がして怖いのじゃ。スマヌが、ワシの我儘を聞いてくれ。』と徐福は、二人を説得する様に言葉を続けた。




『妖よ、もし今後、同じようにワシの民達に危害を与えれば、ワシの法力で必ずお主を殺す。忘れるでないぞ。一度だけ、お主に機会を与える。一度だけじゃぞ。』と徐福が妖に念を押すと、妖は徐福の目を見つめゆっくりと2回頷いてみせた。




(あの男の事か・・・。)


その言葉を聞き、姜文は幼き頃に見た狂王の顔を思い出す。




『ハッ!承知致しました。陸信、スマヌがそっちを持ってくれ!!』と姜文は、妖の上半身を持って忠実な漁師にお願いをした。




海に放された妖は、勢いよく海に沈み、そのまま消えるかと思われたが、10数秒後再び、海面から顔を出し、自分の頭の角の一本の先端を折り、船の中の3人に向けて投げたのであった。




掌に収まる長さの角が船の底を転がる。それをみて、姜文は拾い上げる。


『その角には、我が長い間溜めた生気が詰まっておる。それを口にすれば、その者の身体は不老不死になる、しかし、その代償は孤独じゃ。その者は血脈を残す事ができなくなる。つまり、子孫ができなくなるのじゃ。不老不死の呪いと言うべきか、では決して解けない・・・。』




『不老不死とは孤独を未来永劫味わうという罰・なのだ。その罰を背負う勇気があれば、その角を口にすればよい。その一本で、3人の者は不老不死になる・・・。我が思うに、生半可な覚悟では口にしない方が良いと思うが・・・、忠告はしたぞ。』




妖は、そう言い残し、ゆっくりと海の中に潜っていった。その日、再び姿を現す事は無かったのである。


妖が姿を消し、3人の緊張が一気に解ける。




『ワシらは夢でも見たのか?、自分の目が信じられん。』と言い、徐福はゆっくりと船底へ腰を下ろす。




『不思議な事もあるものですな。蛇の下半身、人間の上半身。ああいう生き物を何と呼べばいいのですか?人蛇ひとへびですか?』


『海と言えば、さかなじゃろ。人魚にんぎょで良いと思うが・・・。ワシはあ奴の角など、食べたくないな。不味いまずじゃろ。絶対・・・。』




『私もそう思います・・・。』と姜文が言うと、陸信も静かに頷く。




『とにかく、今日、皆揃って生きて帰れる。それだけで、幸せじゃな。』と徐福は皆の思いを代弁する様に呟いたのであった。

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