第27話 探索準備

徐福と姜文の二人は、勇気ある一人の若い漁師と3人で小船に乗り、海に潜む危険の正体を暴く為、海に出る事にした。若い漁師は正義感に溢れ胆力があり、数年後には漁師達を取り仕切る事になるだろうと期待されている人物であった。


探索に出る前に、姜文が準備したのは剣と弓と矢と槍をそれぞれ3人分用意したのであった。

姜文の用意周到な所は、同時に山に行くグループの者に毒蛇と毒草を取ってくるように依頼した事である。数日後、依頼を受けた者達は数匹の毒蛇と指示された毒草を持ち帰る。


姜文と徐福は彼らの持ち帰ったモノから、毒を抽出し、その毒を剣先、矢先、矛先へ念入りに塗った。

姜文は、今回失踪した6名は獰猛な未知の生物に食べられた可能性を考えていたのである。

戦いを想定する。船の上でその生物と遭遇した場合、海の中にいる生物に自分達の攻撃が当たる可能性が低い。数少ない機会を確実に生かす事、確実性をより高める為と考え、導き出されたのが毒であった。


その一方徐福は、なにやら怪しい神仙思想の書物を読みふけっていた。

数日後、考えがまとまった徐福は、数匹のにわとりを用意する。怪しげな儀式をした後、清めた刃物でその鶏の首を落とす。流れ出る鶏の血を大きい器に溜めたかと思うと、毛筆に浸し、竹簡ちくかん(紙が発明される前に使われていた書写の材料)に呪文を一気に書ききる。その書く様子は、徐福の普段と違い、真剣で鬼気迫る様子であった。10枚の竹簡を準備しただけで、徐福は気力体力の限界となり、その場で失神したのであった。


意識の戻った徐福へ、姜文が心配そうな顔で様子を尋ねる。

『徐福様、気がつかれましたか?。』

『一体、何をお作りだったのですか?』


『姜文、お主、山海経という書物を知っておるか?。』


『・・・聞いた事はあります。地理書というか、あの妖という、現実にいるかどうか分からない存在をまとめたモノと、・・聞いておりますが。』と、言いながら姜文は準備した水が入った器を徐福へ渡す。


『そうじゃ、信憑性は問う者もおるが、世の中にはワシらが知らない妖というモノがおり、その者達の中には我ら人を喰う者がおるそうじゃ。』

『ワシは、昔、方士の修行をする中、山海経の存在を知り、神仙書の中に、その者達への対抗する技がある事を知った。今迄20年間、奇怪な事など無く、すっかり忘れておったが・・・。』


『6名の者が、音もなく突然行方不明じゃ、万が一という事もある。ワシも方士の端くれじゃ。』

『お主の念入りな準備を見て、ワシも、ワシにしかできない準備をと思い、10枚の破魔の札を作ったのじゃ。しかし、書物に書かれた札の作り方が、これが思ったより重労働でな、気がついたら、この有様じゃ。ハハハッ!』と言いながら、最後は自分の不甲斐なさを冗談にするように豪快に笑い出す。


(この人も、この人なりに考えておられるのだな・・・。)と姜文は思い、徐福が水を飲み干した器を受け取る。


『それでは、万が一妖が出てきても、安心ですね。期待しておりますよ。徐福様の法力を!。』と姜文は笑顔で声をかけると、徐福も又笑顔で、『20年修業したワシの法力、見せてやるぞ!。』と鼻息を鳴らす。


準備を整えた彼らは、その次の日より一隻のみで海に出て、神隠しの正体をあばく事にしたのであった。


自分達を囮にした、命がけの探索をする彼らの勇気を3,000人の民衆は賞賛し、敬愛したのであった。

その中で、他の者達とは別に、一人だけ反対していた女性がいた。彼女の名は、風鈴フォンリンといった。若い漁師と結婚したばかりの恋女房であった。


彼女は、自分の夫が英雄になる事よりも、無事に帰って来てくれる事だけを望んでいたのであった。

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