第26話 神隠し

徐福一行の食糧問題は、豊富な海の幸のお蔭もあり餓死者を出す様な状況にはならなかった。

半年後には、山の近くに住居もつくられ大きな集落を形成する様になっていた。


徐福と姜文は、その集落の長として指導者の役割を果たす傍ら、徐福の医術の知識を生かしケガ人や病人の世話をする事を仕事としていた。


海で漁をする者、山で狩りをする者、山の幸を収穫する者等、各人が自分の得意分野をいかし、徐福達一行の生活は少しずつ良くなり始めていた。


『姜文よ、お主、未だ数名の者に霊薬を探させているのか?。バカバカしい、ある訳なかろう?。』と徐福が薬草を潰しながら、姜文に話しかける。


『3,000人の者を統率するには、やはり目的が必要なのですよ。』

『何故、自分達がこの地に来たのかと、ただ逃げて来たと思うより、目的があってこの地に来たと思った方が気持ちが良いではありませんか。』と、姜文も又、徐福とは違う薬草を擦り潰しながら答える。


『彼らが、探索の傍ら、山でハチの巣を見つけ、蜂蜜を持って来てくれたから、徐福様が好きな蜂蜜酒も作れたのですよ。飲み水の水脈も、彼らは霊薬を見つけれないからと、必ず何か有益なモノを探してきてくれる、探索者の中に、ひとり女性がいるのですが、それがかなり優秀で、正に男顔負けのすごく働く人で・・・・。』と姜文が言う。


『それは、そうじゃが、不老長寿の霊薬がもし見つかったら、争いの元にもなる。それが心配なのじゃ。』


『10年の間、探して見つからなかったモノが、そんなに簡単に見つかる訳はありませぬ。心配しすぎですよ。』


『そうかのう、何か最近、順調過ぎてな。時々不安になるのじゃ。考えすぎかのう・・。』


二人がそんな会話をしていると、海に漁に出ていた者達の長の男が血相を変え、部屋に飛び込んできた。

『徐福様、姜文様、大変です。小船に乗って漁をしていたら、1隻の船が行方不明になりました。』


『何?、その船には何人乗っていたのじゃ?』と、姜文が状況を確認する様に冷静に男に聞く。

『3名です。無人の船だけが発見され・・・。釣った魚はそのままに、乗っている者達の影も形もなく・・・。』


『泳ぎの上手い連中だったから、海に潜っていたのかもしれませぬ、考えずらい事ですが、3人とも一緒に海中で何かの事故に巻き込まれたのかも知れませぬ。』


『・・・。未だ、諦めるのは早い。今日の漁は取り止めにして、皆でその者達を探すのじゃ。ワシらも直ぐに行く。』と徐福が言うと、男は『ハッ!』と言い、ひれ伏した後、速やかに外に出て行った。


その後、徐福と姜文が直接指揮をとり、1日かけて失踪した3名を探したが、終には見つからず、夕暮れが来てしまった。


二人は日が暮れる直前まで粘ったが、2次災害の危険性を考慮し、日が暮れる直前に捜索の打ち切りを決めた。その時その場にいた誰もが3人の死を覚悟したのであった。


次の日、徐福は漁をする者達に二つの決まりを守る様に命令する。

船1隻での単独行動は避ける事。最低2隻で漁をする事を徹底し、万が一、一人でも行方不明者が出た場合、その船の者達は先ずはその事を周りにいる船に伝える事を義務付けたのである。


犠牲者を出した漁師達は当然その約束を遵守したが、信じられない事に、一ヵ月もしない内に、又一隻の船の者達が消えた。

近くにいた船の者達が、気づかない内に又影も形も無くなってしまったのである。


短期間に2度起こった不思議な事件が、漁師達を恐怖させる。少なくない者達が、海の祟りを恐れ、漁を止めると言いだしたのである。


食料問題を抱える徐福と姜文であったが、漁師の長と話し合いの結果、暫く漁を中止する事を決定した。


『一ヵ月に2度、偶然ではあるまい、この海には何かあるのかも知れません。』

『徐福様、此処は私が有志の者達と一緒に海へ出て、その何かを確認して参ります。』と姜文は徐福へ告げる。


『それなら、ワシも行く。こういう時こそ、上に立つ者が自ら動くべきなのじゃ。』と徐福も姜文と同行すると主張する。


『徐福様に万が一の事があれば、その後、誰が民を導くのですか?。』と姜文は驚きながら止める。


『一杯いるじゃろ。3,000人もいるのじゃから。』


『何を言われまする。徐福様の代わりなど・・・。』と言いかけながら、姜文は徐福の日頃の様子を想像する。(プハップハッ言いながら酒を飲む赤い狸顔しか想像できない、・・・言われてみれば、私がもし死ねば、この御方も終わりだよな。)


『その通り、一杯おりますね。仕方がないから、一緒に行きますか?』


『そうじゃろう、そうじゃろう、・・・ん?今、仕方が無いって言わんかったか?。』


『言っておりませぬ。』

『言った!。』

『言っておりませぬ。』

『言った!。』

『あぁ、もう分かりました。分かりました。言いました。言いましたよ。』


『姜文、我が法力の実力侮るなよ・・・!』

『ワシは雨を降らせれる男じゃぞ。』と言いながら、何かの呪文を唱える。

気合を込めて、両手で気を送る動作をゆっくりするが、動きが遅すぎて、風すらもおこらない。

(何がしたいのですか?と突っ込むと、面倒くさいので、姜文は無視する事にした。)


とにかく二人は、神隠しの謎を解く事を決めたのであった。

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