第2章 人魚の肉【不老不死】
第23話 新しい家族の出迎え
明智城の者達が、イソイソと働く中、一人の男が怒りに震えていた。
城主明智光安である。
大切に保管していた十兵衛と煕子の祝言用の酒が影も形も無くなっていたのである。
『ワシは、食事を残すなと言ったが、祝いの酒を総て飲み干せとは、言わなんだ。』
『絶対にわざとじゃ、ワザと解釈を間違えたのじゃぁ!』、光安のその表情は、怒髪天を衝くという言葉の様に鬼の形相である。
『殿、御静まられ下さい。お気持ちは痛いほど分かりまする。しかし、もう時がありませぬ。ご決断を!。』
『先程、妻木広忠様から使者が参り、本日午後には十兵衛様、煕子様がお戻りになるのです。』
『明日、祝言をやり直す時に、酒が無いでは話になりませぬ。殿が悪いのですよ。残したら、打ち首等と、多分皆、打ち首が怖く、死に物狂いで飲んだのです。可哀そうに・・・』と、小間使いの六太は沈痛な表情をしてみせる。
『ウグッ・・・・。分った、ワシが悪かった。吉事には金子がかかるものだ。六太、至急酒の手配をせい。急ぎでな!』
『ハツ!畏まりました!。』と六太は、平伏する。
六太が、足早に蔵から出ていく。
『まあ、
二人の門出に、ケチな事は言ってられんと、頭を掻く光安であった。
明智城の皆は、祝言の仕切り直しを準備するのに大慌てであったのである。
そしてその日の午後、十兵衛が宣言通りに3日で煕子へ連れて戻って来る。
煕子を出迎えたのは、光安、その妻タキ、嫡男岩千代、煕子の妹範子の4人であった。
4人と会う時、何時も以上に緊張し、迷惑をかけた4人に対し申し訳なさそうな表情をしていた。
そんな彼女に、最初に話しかけたのが光安であった。
『煕子殿、元気になられて、ずっと待っておりましたよ。』と、優しい伯父は、何も話さなくても良いという様に煕子を軽く抱きしめる。
光安が抱擁を終えると、直ぐに光安の妻タキと嫡男岩千代が二人で煕子の手を握る。
『煕子殿、お帰りなさい!。』、岩千代の嬉しそうな声が響く。
二人が煕子から離れると、最後に妹範子が泣きながら『姉上!・・・』と煕子を抱きしめる。
『良かったね、良かったね、本当に良かったね。うぅ・・。』と、範子は姉の心の回復を肌で感じ、涙した。そんな、範子の心が分かった煕子もまた、涙した。
『範子、ごめんなさいね。ごめんなさい。』と煕子が範子に謝りながら、姉妹は久しぶりの長い抱擁をしたのであった。
明智家の人々の挨拶は、非常に短く簡素であったが、その声には家族にかける慈愛の響きがあった。
その響きが、煕子にも伝わり、煕子の緊張は徐々に無くなっていった。
煕子の身体を心配した4人は、挨拶は簡単にして、十兵衛と煕子二人が住む部屋に二人を直ぐに案内したのである。
二人の部屋には、既に生活に必要な家具が準備されており、二人は其処に荷物を置き、少しゆっくりする事にした。
この数日、二人とも様々な事があり正直疲れていた。
あれから、3日。お登勢の尽力により、煕子の両親は泣く泣く、煕子の旅立ちを許可したのであった。
父広忠は、最後まで十兵衛に、『煕子を泣かしたら、自害だからな!。』と花婿に念押ししていた。
母知は、娘の選択を尊重し最後は笑顔で見送ってくれた。彼女としては、部屋に引き籠る娘よりは何倍もマシだと腹を決めた様であった。
二人を助けてくれたお登勢は、旅立つ煕子に、『男も女子も最後は度胸です。どうかお幸せに!。』と言い、涙を零し、見送ってくれた。気がつけば広忠も、知全員泣いていた。
現代の様に、何かあったらすぐに実家に帰るという事が出来なかった時代、嫁ぐ(家をでる)とは、永遠の別れに近いモノがあったであろう。
部屋に通された二人は、畳に横になったと思うと直ぐに寝てしまったのである。
緊張がとれ、疲労感が一度に襲って来たのであろう。
夕方になり、少し冷えを感じ、煕子は目覚める。
気がつけば、十兵衛が先に起きていた。
『煕子殿、目覚めたか?もうすぐ、日が暮れそうです。』
『今日は、此処の部屋に、夕食を届けてくれるとの事だから、もう少し横になっていても構わんが・・。』
『いえ、もう起きます。』と言い、煕子は立ち上がる。
『煕子殿、明日は我らの祝言じゃ、時間もある事だし、祝言の前に貴方に打ち明けたい事がある。』
『以前、貴女が知りたがった私の正体に関る話です。聞いてくれますか?・・・。』
『・・・。ハイ。』と煕子は、十兵衛の質問に頷き、十兵衛の傍まで近づき、その場に座る。
『長い話になる。・・・。』と十兵衛はそう言うと、昔を思い出す様にゆっくりと煕子に語り始めたのであった。
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