第1章 交差点【クロスロード】
第9話 瓜二つの姉妹、煕子《ひろこ》と範子《のりこ》
1545年春、美濃の国妻木城は、穏やかな天気に恵まれていた。
『姉上、今日はとっても、天気の良い日ね。ところでお身体の調子はどうですか?』と煕子より一つ年下の妹
二人は、年子なのだが、容姿がそっくりで双子の様であった。
妻木城城主妻木広忠の娘達は、城下の者達の間で美人姉妹と評判であった。
『本当に天気が良いわね。体調は、特に問題無いわ、
『・・・それは、良かったですわ。・・・・ということは
『んん??範子、茄子の漬物がどうしたの、・・あ、そういえば、あなた、今日茄子の漬物に手を付けて無かったわね。美味しかったのに、勿体ない。』と煕子は朝食の状況を思い出し、背伸びをした後、余韻に浸りつつ太陽を見上げたまま妹に問いかける。
『姉上、大したことではありませんわ、ほら、1週間前、私達、二人そろってじんましんが出たでしょ。その日も、朝ごはん食べた後、その日も朝ごはんに茄子の漬物が出たじゃない、だから今日私、念の為、茄子の漬物には手をつけなかったの。大した事ではありませんわ。』と範子は何時もの口調で答えた。
『え・・・。』『範子、貴方、なんでそれを私に言わないのよ。・・・しかも貴女、手を付けない茄子の漬物、良ければ姉上、どうぞと勧めたわよね。』と、煕子は妹の真意を確かめようと妹の方へ振り返る。
『姉上、落ち着いて、私に悪意は無いわ。姉上が本当に美味しそうに茄子の漬物を食べるから、残すのも勿体ないし、分かるでしょ。』と、冷静に言う妹。
『それは、そうね。声を大きくしちゃってごめんなさい。』と煕子の口から謝罪の言葉が出る。
『結果的日、一石三鳥じゃない。姉上は、美味しい茄子の漬物を多く食べれた。私は、自分の仮説を試す事ができた。そして、その結果茄子の漬物は、私達が食べても問題無いという事が分かった。そうよね、姉上。』と範子は演説をする様な大きな声で言ったのである。
『・・・そうね。何か、私が利用されたような気がして腑に落ちないけど、・・・確かにそうね。』
『姉上、今日は遠足日和ですわ、山に花でも取りに行きましょう。』と範子は話題を替える。
『範子、私なんか、腑に落ちないのだけど・・・』
『さあ、さあ、姉上、汚れても良い着物に着替えましょう。着替えたら出発です。』
『範子、・・・腑に落ちないんだけど・・・。』
『私も着替えてくるので、着替えたら城門に来て下さいね。』と言い残すと、範子は正に逃げるようにその場を退出したのである。
『範子は、いつもそう、本当に逃げるのが上手いのよね。』と、煕子は呟き、観念したように
暫くすると、気を取り直した彼女も急いで着替える為に自室へ向かったのであった。
着替えた二人が、城門で合流する頃には、煕子の気持ちも切り替わっていた。
容姿は似ていても、性格はそれぞれ違っていたが二人だが、二人の仲は良かった。
その日、二人が山で花を摘み城へ戻ると、煕子は父妻木広忠に呼ばれたのであった。
二人の母、つまり妻木広忠の正妻の実家、明智家より縁談の話が来ている事を広忠は煕子に告げる。
相手は、明智城の先代城主の嫡男明智十兵衛である。
父は、娘の心情を思いやり、娘の心の準備の為に、祝言の前に二人を会わせたい旨を、十兵衛の叔父である明智光安に提案したのである。明智光安は、快く快諾し、料理修業を名目に1ヶ月の間、煕子は明智城で生活する事になったのである。現代でいえば、お見合いの機会を与えたのである。
『煕子、十兵衛殿は優秀な男子と聞いている、じゃが、もしお前が嫌だと思ったら、この縁談を断っても良いと思っておる。旅行気分で、気軽な気持ちで行って来い。』と言う、父広忠の声は優しかった。
『父上、お言葉有難うございます。十兵衛様とは、彦太郎兄様ですよね。幼き頃、一緒に遊んでおりますので、どんな性格かは知っております。優しいお兄様でした。10年振りですが、再会できるのがいまから楽しみですわ。』と煕子は心配する父の気持ちを和ませるために、少し強がってみせ、父の要望である明智家への料理修業の件を受け入れたのであった。
1週間後、御付きの者数名と共に煕子は、明智城へ向かったのである。
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