ラディの話6

 グラントとリサが出発する日、ステフとメグは宇宙港に見送りに行くと言っていた。

 モーリスはリモートで立ち会う。

「僕には最後まで責任があるから」と言って。

 モーリスの医療データをモニターしているディープは、もし何かあっても対応してくれるはず。


 僕はここでモーリスを見守る。


「3時間、いや2時間で間に合わせるから、時間になったら教えてくれる?」

 それまで体力を温存するため、休むことにしたらしい。


 時間が来て、僕は声をかけにいった。

「モーリス、時間だよ。起きられる?」

「うん。起きます」

 起きて着替えて、仕事部屋に行く。

 それぞれのモニター、端末を次々と立ち上げて、ヘッドセットをつけると、彼の中でスイッチが仕事モードに切り替わった。


 AIアークを介し、モーリスの複数のモニターにたくさんの情報が入りはじめる。

 グラント、リサ、船のシステムとそれぞれやりとりしながら指示を出し、流れるように準備を進めていく様子を実際に目にすると、やっぱり凄いと思う。


 やがて、船はモーリスの手を離れ、管制とつながり、離陸準備に入った。

 あとは見守るのみとなった。


 ——そして、船は無事、出航していった。


「…行ってらっしゃい」

 モーリスはつぶやいて、ヘッドセットを外して、そっと置いた。

 モニターには、AIアークを通して送られてくる宇宙の映像が流れていて、僕達はしばらく黙ったままそれを見ていた。


 モーリスはAIアークと繋がっているモニターをひとつだけ残して、他をシャットダウンした。

 そして…ゆっくりと立ち上がりながら言った。


「ラディ、覚えておいてね。もし、僕がいなくなっても、僕の魂はあの船にあるんだ。グラントとリサに預けておくからね」


「……!!」僕は思わずモーリスを後ろから抱きしめた。

 あの船について彼が、『秘密だからダメ』と言った本当の理由は、これだったのだ。

 モーリスは抱きしめている僕の腕をそっと握り、

「だから、きっと淋しくないよ」

 静かにそう言った。



 僕は奇跡なんてそう簡単には起こらないことを知っている。

 僕には、信じること、信じ続けることは難しい。

 ある日突然、あらがいようのない大きな渦に巻き込まれ、なすすべもなく立ち尽くす、それは誰にでも明日にでも起こり得ることで、「運命」だとか単純な言葉にしたくはない。


 それでも…。


 いつだって、世界は変わらずそこにあって、美しい。

 だから、それをきっと「希望」と呼ぶのだろう。


 生きること。今、生きているということ。

 今、ここに君といること。


 ——それだけが僕の全てで、僕は君との約束を守る。



 *** 外伝1 終 ***

 《外伝2へ つづく》

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これからも僕達は 外伝1 春渡夏歩(はるとなほ) @harutonaho

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