メグの物語8

 そして、本当に連絡がきた。

 

 待ち合わせたお店で、彼はパーティーの写真を見せてくれた。とても素敵なシーンがたくさん切り取られていた。写真は趣味なのだという。ふたりに贈るアルバムの写真を一緒に選ぶのは、楽しかった。


 あたしは少しだけアルコールのチカラをかりて、思い切って言おうと思った。

「あのっ…」でも、いきなりそこでつまってしまった。

「ん?どうしたの」

 のぞきこむ瞳の色に、ドキドキがとまらない。

「あの、あたし、あなたが好き…です。つきあってもらえませんか?」

(言っちゃった…)

 彼は微笑んで、

「ありがとう。でも、僕達にはもう少しお互いを知る時間が必要だと思う。メグ、君の目に僕はどう見えている?」

「え?」

「はじめに言っておくね。僕はトランスジェンダーなんだ。見た目は男性に見えるだろうし、心も男性だけど、女性の君を男性として満足させてあげることはできない。それから、僕達の間に遺伝的な子供はできない」

 

 ああ、リサはこのことを言っていたんだ。あたしは言った。

「あたしがかれたのは、あなたが男性だからでも、女性だからでもなく、あなただから。私だって、見た目は全くわからないと思うけれど、事故で右眼と右脚の膝から下は、人工器官に置き換えてる。外からわからなくても、人それぞれみんな抱えているものはあるのだと思う」

 

 少しして、彼は静かに言った。

「…そうだね」

 ふたりともしばらく無言だった。

 そのとき、あたしの端末が着信して、

「あ、ごめんなさい」あたしは席をはずした。


 *


「どうしたの!?メグ。何かあった?」

 席に戻ったあたしはたぶん真っ青になっていたのだと思う。

「父さんが…」

 父親が倒れて、緊急手術になったという病院からの連絡だった。

 彼は話を聞くとすぐ立ち上がって、あたしの腕を取った。

「行こう。送るよ」


 病院では、家族室で待つよう言われた。

(父さん…)

 あたしは両手を組んで祈った。ふわっと上着がかけられ、肩をギュッと抱き寄せられた。

「大丈夫?震えてるけど」

 あたしは父さんがもしいなくなったら、ひとりになってしまうと怖かったのだ。

「まだあたし何の親孝行もしていないのに…」

「これからだって、たくさんしてあげられるよ。そう信じよう?」

「…うん」


 父さんの手術は無事終わった。あたしはまたこれからのことを考えなければならなかった。

「メグ、よく考えてごらん。お父さんのそばにいて、お世話をすることを本当にふたりとも望んでいるの?メグが本当にやりたいことは何?君が君らしくいることをお父さんも望んでいるんじゃない?」彼にそう言われた。


 翌日、父さんとはようやく話ができるようになった。

「もともとそろそろ会社は副社長に譲るつもりだったんだよ。私は引退して顧問になる。お前を縛るつもりはないよ。この間の事故のあと、そう決めていたんだ」


 

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