メグの物語5

 そして、それから数日後、あたしの人生を変えたその訓練事故は起こった。あたしは、片目と片脚の膝から下を失った。人工器官の発達により、置き換えられた身体の機能に問題はなくても、もう操縦士を目指すことはできなかった。


 リサも父親も何度も面会に来てくれていたらしかったが、あたしは誰とも会いたくなかった。深い水の底に沈んで横たわったままのように、すべてが水面の向こうの遠くに感じられて、何もあたしには届かない。リハビリはしていたけれど、外側の身体だけが言われたまま動いているだけで、心は閉じたままだった。


 その日、起こしたベッドに寄りかかり、あたしは窓の外、青い空をただぼんやりと見上げていた。ふいにドアの外が騒がしくなったかと思うと、部屋に飛びこんできたのは…。

 

 リサだった。

 

 彼女は息を整え、虚ろな目のあたしをまっすぐな瞳で見ながら、こちらへ来た。そこで、急にくしゃっと顔がゆがんだかと思うと、あたしは頭をリサの胸に抱かれていた。

「メグ。生きてて良かった…」

 リサの温もり、鼓動、フライトスーツに染みついた機械油の匂い…。急に、何かが胸の中に突き上げてきて、あたしは事故以来、はじめて泣いた。

「リサ。私、もう飛べない…」


 涙が止まらなかった。このままずっと続くと思っていたあたしの描いていた未来が、突然絶たれたことを、あたしは認めたくなかったのだ。

 リサは何も言わず、ずっとあたしを抱きしめてくれていた。


 そして、心配して駆けつけてきていた父親とも久しぶりに会った。

「メグ。お前は充分がんばったよ。戻っておいで。ケガがあっても、お前がそのままで完全なことは、変わらないのだよ。自分を大切にして欲しい」

 あたしはこれからを考えなくてはならなかった。でも、家に帰るのは違うという気がした。

「今、誰かに頼ってしまったら、もうひとりで立てなくなってしまう気がする。何ができるかまだわからないけど…」

 本当は、父さんが今すぐ帰ってきて欲しいと思っていることは、知っていた。

「わかった。いつでも帰りたくなったら、戻っておいで。お前は私の自慢の大事な娘だからね」

「ありがとう、父さん」


 窓の外、空に飛び立った船が、白い飛行機雲をひきながら行く。


 あたしはもう飛べないけれど、それなら下から支える人になりたい、

 そのとき、そう思った。


 リハビリが終了し、退院が決まったとき、私はリサに言った。

「リサ、私の分まで飛んで!私はあんたを地上からサポートするから」


 あたしは航空管制官を目標にしたのだ。




 

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