メグの物語6

 そして、あたしが管制官としての道をようやく歩み出した頃、その事故は起きた。

 

 衛星軌道にある低位ステーションから、緊急着陸要請の情報が入って、管制は騒然としていた。遊覧ツアーで子供達が多く搭乗。メインエンジン1基使用不能。機長が負傷したため、訓練中の副操縦士が操縦しているらしい。等々。


「船は大気圏内に突入、まもなく離脱してきます」

 カウントダウンがはじまり、やがて…。

「レーダーにとらえました!投影します」

 スクリーンの中で、片肺飛行の船は激しく揺れて、なんとか高度を保ちつつ、ようやく抜けてきた。そして、ついに直接、音声がつながった。

『こちらワイドビュー号です。緊急着陸の誘導を要請します』

 忘れることのないその声は、リサだった。

「わかった。私がサポートして、一緒に必ず着陸を成功させてみせるよ。約束どおりに!」

 いちばん着陸しやすいルートを考え、誘導ビーコンを飛ばす。


「機首が下がりすぎだぞっ!」

 スタッフの声に、しかし、再アプローチの要請はない。

「このまま行く気か!」

 そして…。


「すごい!のせたぞ!いける、いけるぞ!」

 リサは誘導ビーコンを捕らえることができたのだ。

 着陸許可を求める機長の落ち着いた声が届いた。

『コントロールタワー、ファイナルアプローチ、OK?』

「こちらコントロール、了解した。緊急車両を待機して待つ。無事を祈ってます。リサ、頑張って!」

 スタッフがスコープで機影を確認している。

「見えたぞ!」


 たくさんの緊急車両が待機している中で、船は少しだけオーバーランして、最後はガクッと大きく揺れ、止まった。

「止まった!」

「やったー!」

「救助者の確認、急げ!」

 スタッフが一斉に動き出した。

 あたしは小さくつぶやいた。

「お帰り、リサ」


 緊急着陸のために、滑走路をクローズして離着陸を待機させていた船がたくさんあった。

「さあ、他のお客さんがお待ちかねだ。これから忙しくなるぞ!」

 チーフの声に、あたしはヘッドセットを付け直し、次に担当する船と交信を開始した。

 

 これが、あたしとリサの訓練生時代からの記憶。

 一緒に過ごしたこの数年間を、あたしは忘れない。


 


 

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