メグの物語3

 どんな集団にもイヤな奴というのは、いるものだと思う。あたし達のクラスにも、何かとイヤミを言って、難癖をつけてからんでくる奴がいた。名前は確かエド。

 その日は、先日の試験結果の発表があって、エドは学科であたしに負けて、実技演習ではリサより下だったから、根にもっていたに違いなかった。


 あたし達が休み時間におしゃべりしながら笑っていると、

「何がおかしいんだよ?バカにしてるのか?」

 突然、言いがかりをつけてきた。

「何、言ってるの?関係ないでしょ」あたしは言った。

「前からお前たちは目障りなんだ。特にお前のこの髪、ふざけるな!」

 奴はリサの頭をガッとつかんでゆすった。

「何するの!離しなさいよ!」

 エドはあたしを指差して、

「お前はどうせ親父のコネでひいきされてるんだろ?」

 あたしの父親が、訓練センターに多額な寄付をしていることは事実だった。だから、あたしは変な誤解をされないよう頑張ってきたのだ。


「離してよ」

 そのとき、リサがエドの腕をつかみ、今まで聞いたことのない低い声で言った。瞳の中に怒りが見えた気がした。リサは、反対の手であいつの襟元をつかんだ。

「私の大切な親友を侮辱するのは許さない。文句があるなら、実力で勝負したらどうなの?」ドン!と後ろに突いた。

「なんだと!?」

 リサは逆に押し返され、頬を平手打ちされて倒れるとき、壁に頭がぶつかる音がした。そのまま倒れたリサは動かない。

「見ろ!結局、チカラではかなわないんだよ!」エドが勝ち誇ったように言う。

「リサっ!」


 騒ぎにようやく教官が来て、まわりで目撃していた訓練生達の証言で、あたし達に非がないことは認められた。エドは謹慎処分になった。


 リサはすぐ医療センターへ運ばれて、詳しいチェックを受けた。もし、頭部や目、耳にダメージがあったら、当面、訓練中止になってしまうからだ。幸い大丈夫だったけど、念のため1泊し、1週間はシミュレーターの搭乗禁止、頭痛や吐気があったら、すぐ診察を受けるようにということだった。


 翌日、その日の訓練が終了し、あたしが寮に戻ると、リサは顔にアイスパックを当てて、ベッドにいた。

「大丈夫?」

「あ、お帰り」

 リサは身体を起こし、ベッドに腰掛けた。あたしはリサの顔を見た。

「これは…腫れてるね。ごめんね。リサが怒ったの、はじめて見た」

「あんなひどいこと言われて、あたりまえでしょ」

「ありがと」

「それで、あいつ、エドはどうなったの?」

「謹慎したあと、結局、辞めるらしいよ」

「そっか…。辞めちゃうんだ。私を殴ろうとしたとき、はじめは握ってた拳を途中で平手に変えたんだよね、あの人…」

「同情なんてする必要ないでしょ」

「…うん」

 厳しくなる訓練に耐えられず、脱落する訓練生が他にも出始めていた頃だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る