メグの物語2

 そのクラスで女子は、あたしとリサのふたりだけだったので、あたし達は寮で同室になった。あたしはリサより2歳上だ。上級課程に進めば、個室になるらしいけど、4人部屋にふたりなのでラッキーだと思った。


 訓練センターに入所するのはかなり狭い門で、児童福祉センター出身のリサは苦労したはず。

 あたしは父親が貨物輸送会社を経営していて、物心ついたときは船内の片隅で遊んでいた記憶がある。片親でもいるあたしは、家族の話題が出ると、リサの前では少し肩身が狭い。

(もちろんリサはそんなこと気にしてないと思うけど)

 父親はあたしが操縦士になって、会社を継ぐことを期待してる。そういうわけで、あたしが操縦士を目指すことは義務で、現実的なことだった。


「リサ!早くしないと遅れるよ」

 操縦士訓練生の制服に身を包み、準備完了のあたしは、リサに声をかけた。

「待って。今、行く」

 リサは栗色の豊かな髪をどうにか制帽に押し込めると、もう一度鏡を見て全身をチェックしている。


 訓練センターに入所するときに、あたしはベリーショートにしたけれど、リサはかたくなに髪を伸ばしたままだった。リサが髪型を変えない理由を、あたしはあとで知った。

 彼女の心の中にはずっとある人がいて、再会できたときに思い出してもらうためだったのだ。リサが操縦士を目指して頑張っているとき、いつも心の中にいた人。

 リサはその人に「操縦士になる」と誓ったのだと言う。

「でも、私が勝手に約束だと思っているだけなんだけど」そう言って、笑った。


 *


 ヤルタ科学局の見学ツアーがあったその日、休憩時間に私達はロビーに出ていた。リサは突然、グループを離れて走り出した。彼女が長身で黒髪のその人の前に立って、敬礼する姿が目に入ってきた。


 その日のリサはそのあとずっと上の空で、ときどき遠い目をして、ニマニマして、とても薄気味悪かった。

(そう、あの人がそうなんだ…)

 それから、リサはときどきその人に近況を知らせているらしかった。


 自慢じゃないけど、あたしは座学も演習もそこそここなした。どちらもクラスで、ベスト3から落ちたことはなかったから。リサは座学はいつもギリギリで、試験の前にはよくあたしに泣きついてきた。演習は、なんというか、ムラがあって、誰にもマネのできない素晴らしいテクニックをみせるときと、そうでないときとの差が大きかった。


 あたしはよくリサに言った。

「リサ。直感がいつも正しいとは限らないでしょ?安定した操船をするためには、理論的な知識で裏打ちする必要があるんだから」

「誰でもいつでも同じ操船なんて、つまらない。機械と同じじゃない?面白くないよ」


 リサは飛ぶのが楽しいと言った。宇宙への夢と憧れを抱いている彼女と、義務でこの場所にいるあたしとでは、根本的に異なっていたのだ。

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