グラントの物語5

 リサが低位ステーションに戻る朝が来た。


「復、活!」と言うのに合わせて、肩の高さに上げた両手の拳を、さらに上に突き上げる。そして、入念に鏡の前でひとまわりして制服を確認し、鏡の中の自分にピシッと敬礼した。

「やっぱり気持ちがひきしまるぅ」

 無意識の鼻歌が聞こえて、ご機嫌な様子だった。

「ユーリも出発したら、またしばらくこの部屋は使わないんでしょ。なんだかもったいないみたい。節約した方が…」

 僕はリサに言った。

「君はそういう心配しなくていいから。訓練に集中して邁進まいしんしてください」

「はい」


 モーリスのおかげで、ようやく僕達の船が手に入るかもしれなかった。僕はいよいよローンを背負う身になるけど、まぁなんとかやっていけると思う。


 リサは完璧な敬礼を僕にして、

「では!行ってまいります」

「はい、行ってらっしゃい」

 でも、ドアまで行ったところで小走りに戻って来た。

「忘れ物?」

「うん」

 彼女は僕の正面に立ってニコッとすると、背伸びをして、僕の頭の後ろに手を伸ばし、ぐいっと引き寄せて、キスをした。

「ユーリって、背が高くて素敵なんだけど、こういうときは不便。じゃあ、行ってきます。ユーリも気をつけて行ってきてね!」

 身をひるがえしたリサの後ろで、ドアが閉まった。


 僕達の休暇はこうして終わった。


 僕はリサに手紙を書くことにした。

 君にまだ言っていないこと、伝えたいことがあるから。

 僕達の船が出発する日が来たら、その朝、君に渡そうと思う。


 その日が来るのを楽しみに、僕は君を待ってる。


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