グラントの物語3

 約束したお店でステフと会った。

「リサは大丈夫?」

「うん、だいぶ元気になったよ。まだ微熱があって、食欲はあまりないみたいだけど」

 ステフの表情が、(えっ!?)となった。

「もしかして、リサおめで—」ステフはとんでもない爆弾発言をしようとして

(今、おめでたって言いかけたよね!?)

 僕は全力で否定した。

「そんなはずないだろう?リサはまだ訓練生なんだし。そうならないように、僕達、いつもきちんと気をつけているから—」


 ステフの目がまんまるになっていて、そこで、ハッと気がついた。顔から火が出る、とか、穴があったら入りたい、というのはこのことだ。

(あああ、やってしまった。これはまずい。僕達の関係がバレバレだよ。リサに怒られる)

「—大丈夫だと思いマス」

 僕の声は聞き取れないくらい小さかったと思う。もう消え入りたい気持ちだった。


 ステフは吹き出して、爆笑している。笑い過ぎて、涙をふきながら、

「仲が良くていいね。僕、グラントは、正式なパートナーとなるまでは手を握るだけ、とか言うんじゃないかと思ってたから」なおも笑い続けている。「ダメだ。止まらない」

「ステフ、最近、どんどん人が悪くなってる気がするけど?」

「うん、グラントの話が楽しくて」

 勘弁してほしいと思った。


 ステフはようやく笑いがおさまったらしく、

「リサは今、グラントの部屋にいるんでしょ?寮から外泊するときって、どうしてるの?」

「義理の兄とかおじさんとか、いくつかパターンを作ってあるんだけど、今のところ深く追及されたことはないなぁ。訓練センターは、自分の行動には自分で責任をもつという考えのところだからね」

「いっそのこと、もう正式なパートナーになるとか?」

「それもね…。手続きの問題もそうだし、まだ訓練生なのに、といろいろあることないこと言われるだろうから。たとえ悪意がなくてもね」僕は続けた。「女性の操縦士はいるけれど、まだただでさえ制約が多いんだ。特にリサのように、外宇宙を目指す人はとても少ない。リサは苦労して、がんばっていると思う。だから、そういう余分なハンディや負荷になることは、ひとつでも減らしてあげたいんだよ。少なくとも訓練センターを卒業するまでは、僕達はこのままだと思う」

「リサは最終課程に進んだんでしょ?」

「うん。僕も経験があるけど、ここからが長い。でも、待つことは少しも苦じゃないよ。楽しみでもある」


 ステフはそのとき何か思いついたらしかった。

「今、思いついたんだけど、ふたりが正式なパートナーになったら、パーティーをしない?」

 リサのドレス姿が目に浮かんだ。

「ありがとう。リサもとても喜ぶと思う」

「僕もその日を楽しみに待ってるね」

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