僕のとなりを

グラントの物語1

 話は少しだけ前に戻る。


 僕達はパートナーとなる約束をしたけれど、実際にはまだ多くの時間が必要だった。リサが訓練センターを卒業するまでには、少なくともあと数年はかかるし、僕達の船をいつ入手できるかもわかっていない。まだまだ多くの課題があった。


 冷たい雨は夜になって、さらに強くなった。


 僕達が一緒に過ごせる時間は相変わらず限られていたから、少しでも快適になるようにと、僕は今までよりも広い部屋に居を移した。

「ただいまぁ」

 玄関でリサの声がした。最初は遠慮がちに「お邪魔します」と言っていたが、近頃は堂々と「ただいま」と言っている。

 僕が今日、フライトから戻ってきたので、こちらへ来てくれたのだ。


 リサはびしょ濡れで入ってきた。

「ユーリ、お帰り。早かったね」

「ただいま。リサもお帰り。びしょ濡れじゃないか。迎えに行ったのに」

「うん、この方が早いと思って、帰ってきちゃった。シャワー浴びるね」

 その姿がシャワー室に消えたあと、リサがポタポタ部屋にたらした水滴を拭きながら、着替えを置いて、声をかけた。

「リサ、着替え置いとくよ。ちゃんとあったまった方がいいよ。」

「うーん、わかった。ありがと」

 リサの制服を取り上げると、ぐっしょり濡れていたので、僕は全自動洗濯システム(洗濯、乾燥、プレスまで自動的にやってくれる)をスタートさせた。

「あ、なんだか良い匂いがする!お腹すいた—」

 そう言いながら、髪を乾かしているリサは僕の服をダボっと着て、可愛らしかった。


 一緒に食事をしたとき、いつもより少し元気がないように感じたが、

「今日はちょっと疲れちゃったから、もう寝るね〜」

 早めに寝室へ行くリサを

「おやすみ」と僕は見送った。


 翌朝、リサは起きてこなかった。

「リサ、朝ごはんできてるよ」

 起こしに行くと、

「いらない…。頭がガンガンする」

 頬が真っ赤で、触ると熱い。

「うわっ、かなり熱が高そうだね。待ってて」

 アイスパックを持ってくると、リサの頭を持ち上げてその下に置いた。リサは冷たさが気持ちいいのか、目を閉じている。

 いつも元気いっぱいのイメージなので、こうして不調なのを見るのははじめてだ。

「リサ、しばらくここに居た方がいいよ。寮には僕が連絡してもいい?」

「うん…」


 毎年、この時期に訓練センターは、メンテナンスでだいたい1週間クローズする。僕達は休みを合わせて、リサは泊まった後、今日は一緒に出かける計画だった。昨夜は申請済だからいいとして、寮に連絡しないと、今日からは無断外泊になってしまう。

(えーと、身内の不幸、義理の兄、叔父さん、遠い親戚…)

 僕は指折り数えて、どのパターンでいくか考えたあと、端末を取り上げた。


 

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