ステフの物語3
別に隠すことでもないからと、グラントは僕が話題をふると、彼女のことをときどき話すようになった。でも、自分からは言わないから、たぶん他の3人は何も知らなかったはず。
ふたりの関係は、兄と妹のままだったけど、グラントの中で彼女の存在が少しづつ大きくなっているように、僕には思えた。
その関係を大きく変化させたのは、あの事故がきっかけだったと思う。
「グラントがこういう路線でフライトするのは、珍しいんじゃない?」
グラントに誘われて、その日はオフで他に予定もなく、僕は一緒に昼食をとっていた。
この星の衛星ソニアが、昼間の空に白くぼんやり浮かんで見えた。
「リサは今日、訓練飛行に行ってるんだ。さっき送ってきた。彼女は度胸があるから、腹をくくれば強いのだけど、緊張し過ぎると実力が出せなくなる。笑ってたから大丈夫だと思うんだけど」
(ああ、このフライトを選んだのは、それで、なんだ)
僕は少し温かい気持ちになった。グラントはあまり口に出さないけど、そういう優しさを持ってる。
食事が済んで、コーヒーを飲みながら、僕は端末をチェックしていた。
「グラント、これ見て」
ネットニュースの速報で、遊覧ツアーの事故の様子が流れていた。子供達が多く乗っているらしい。
「どうしたの?」
グラントの顔色が変わっていた。
「これ…。今、リサが訓練飛行で乗っている船なんだ」
「えっ!?」
グラントは固まったまま、動かない。
「何してるの?早く行って!!」
「でも…でも、行っても何もできない…」
「何言ってるのっ!? 行って、そばにいるだけでいいんだよっ!」
その瞬間、グラントは立ち上がり、飛び出していった。
(リサ、どうか無事で…)
僕は祈った。
彼女は、グラントの大切な人だから。
そのあと、僕はネットニュースで船が無事、着陸できたことを知り、グラントからは彼女の無事を知らせる連絡があった。
*
それからしばらくして、僕はメディカルセンターでグラントとばったり出くわした。
(隣にいるのは…リサ?)
ふたりは手を繋いでいた!(おおっ!)
僕の視線に気がつくと、グラントはパッと手を離し(笑)、
「ステフ…。リサです」少し赤い顔で紹介してくれた。
「リサ、ステフだよ」
「はじめまして。リサ、と呼んでください」
思ったとおり、笑顔が魅力的な人だった。
「はじめまして、ステフです。前から伺っていたので、お会いできて嬉しいです」
リサが(え?)という顔でグラントを見て、グラントは遠くに視線をそらせる。
(ちょっと意地悪だったかな?)
僕はなんとか笑いをこらえた。
ふたりは操縦士の定期健康チェックに来たと言った。
僕は定期診察の予約時間が近づいていたので、そこでふたりとは別れた。
その日は、ずっと、なんだか僕まで幸せな気持ちだった。
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