ステフの物語2

 実は僕は、ふたりのことをかなり前から知っていた。


 モーリスの体調は不安定だったので、長期間のフライトから戻ったグラントにタイミングを合わせて会えるのは、僕だけのことが多かった。

 いつも星から星へ、宇宙を飛びまわっているグラントは、その日、久しぶりに戻ってきたのだった。


 僕達はグラントの部屋で話していた。その方がふたりとも気楽だったからだ。

「あいかわらず殺風景な部屋だね」

 グラントならもっと広い便利な部屋に住むこともできるはずだった。

「うーん、この部屋は無いと困るんだけど、たまにしか使わないから、これで充分なんだ」


 そのときは、なんだかこんな話題になった。

「ステフ。誰かに誕生日をお祝いしてもらえるのって、嬉しいよね?」

 グラントが言った。

「まあ大概の人はそうじゃない?」

「やっぱり当日、だよなぁ…」

 視線を宙にさまよわせたグラントのひとりごと(たぶん)をひろって、僕は答えた。

「遅れるのはサイアク、早い方がまだいいし、当日がベスト、だよ」

「間に合うか…な?次のフライトはギリギリだけど」

(何か考えながら言ってるこれは完全にひとりごとのつぶやきで、ダダ漏れなんですけど)


 そのとき、グラントの端末がメールの着信を知らせて、それを見た彼の表情が少しくもった。

「ちょっとごめんね」

 席をはずしたグラントは、誰かと通話していた。

「…うん、メール見たから。…大丈夫だよ。次に頑張ればいい。全部1回で合格なんて誰もできないよ。僕だってそうだったし。…うん、うん」

 途切れ途切れに会話が聞こえてくる。

「…日の夜。宇宙港で待っててくれる?△カフェがいいかな。…そう、良かった。時間はまた連絡するよ」

 なんとなく聞いていたそのとき、さっきまでの会話がピンときた。

(あ、誰かの誕生日?誰?)

「…おやすみ」

 会話が終わった。


「ごめん、ステフ」

 戻ってきたグラントに、思い切って聞いてみた。

「グラント。僕、知らなかったけど…もしかして、付き合っている人がいるとか?その人の誕生日なの?」

「いや、違う違う」グラントは笑って手をふり、否定したあと少し考えている様子で、「うーん。妹、かな?」

「妹?」

「操縦士を目指している訓練生で、ときどき相談にのってるんだよ。もうすぐ誕生日なんだ。でも、彼女がまだ子供だった頃を知ってるから、恋人とか、そういう関係じゃないよ」

「ふーん、そうなんだ」

(でも、『彼女』って言ったよね?『あの子』じゃなくて。いつのまに知り合ったんだろ)

 はじめて聞いた話だった。


 これがリサの存在を知った最初で、僕の予想は良い方へと当たったことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る