リサの物語9

 搭乗出口で、他のスタッフとともにお客様を見送る。怪我をされたお客様には深くお辞儀をし、子供達には手をふった。


(怖い思いをさせてごめんなさい。このあと飛行機に乗るのが嫌にならなければいいんだけど)と私は願った。


 ひとりの男の子が走ってきて

「これ」

 少し恥ずかしそうに何かを渡そうとしたので、私は膝をついた。

 その子は私の首にリボンをかけてくれた。星の形に折られた金色の紙に『きんめだる』と書かれていた。

「ありがとう」

 そう言うと、その子はニコッと笑った。

 かけ戻ったその子の肩を抱きとめた保育士の女性がこちらへ会釈するのに、私も立ち上がり返礼した。


 全てのスタッフを送り出し、操縦室に戻ると、救急隊員が待機しているにも関わらず、機長はまだそこにいた。

「君も早く降りたまえ」

 

『機長は最後に船を降りるんだよ』その人は以前そう言っていた。


「いえ、今この船の責任者は私です。どうぞお先に。お疲れ様でした」

 私は機長へ敬礼した。


 タラップを降りたとき、ストレッチャーで機長が運ばれるところだった。

「君はよくやった」

 差し出された手を私は握った。

「ありがとうございます」


 そのとき、私ははじめてほめられたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る