リサの物語7

「着陸に向けて、これから副操縦士の君に、私の代理として、権限を譲ることにする」

 機長が宣言した。


 緊急着陸の可能性についてチーフに伝えて、他の5人のクルーと共に乗客への対応をお願いする。引率している保育士にも、子供達がわかりやすい説明を考えてもらう。乗客の中には残念ながら医師はいなくて、看護師がひとりいたので、機長を診てもらった。折れた肋骨が内臓を傷つけているおそれがあり、早急に治療が必要だった。


 他に何かやらなければいけない、忘れていることはないだろうか?


「機長が負傷されたため、副操縦士の私リサ ターナーが代理をつとめます。私は経験不足の未熟者ですが、どうかよろしくお願いします。必ず全員無事で帰還します」

 インカムでメンバーに伝えた。

 最後の言葉は、はったりだ。


『了解』、『了解です』、『了解しました』…。

 思いがけず次々と返答が返ってきた。これが私のチームだ。


『君はひとりじゃない。チームが助けてくれる』

 そう言ったその人を思い出す。


 私のフライトプランを機長が承認し、着陸地の管制へ緊急事態宣言を行った。


「では、行きます」


 チームを信じて。

 ひとりじゃない。

 最後の最後まであきらめない。

 できることを考えろ。


 シミュレーターではもっとあり得ない状況設定だって、たくさんあったはず。

 今まで訓練で身体にたたきこんできた手順をイメージして、何度も頭の中で繰り返す。


 私は無事にこの機体を着陸させてみせる。

 誰ひとりとして欠けることなく、絶対に!

 そして、帰るんだ。


 私を待っていてくれるその人の顔が浮かんだ。

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