リサの物語4
宇宙港のカフェで、私はその人をずっと待っていた。
「そろそろラストオーダーですが?」
店員に声をかけられたそのとき、その人が急いで入ってくるのが見えた。
「リサ!待たせてごめん。もう帰ってしまったかと思った。あまり時間がないんだけど、どこに行きたい?」
フライトの大幅な遅れにフライトスーツのままで着替える時間もなく、スタンバイ中のわずかな時間を私のためにくれたのだった。
「展望デッキ!」
私は迷うことなく、即答した。
展望デッキからは、さまざまな色のライトが光る滑走路がよく見えた。
「見て!きれい。私、夜の宇宙港って大好き」
「毎日、ここにいるのに?」
「たくさんの星が光っているみたいに見えるでしょ?」
「リサは星空が好きだね。僕は誰もいない明かりを落とした自分の操縦席で、宇宙を見ているときが、いちばんホッとするかな」
この人を地上につなぎとめておくことはできないのだと、そのとき思った。
それからその人は微笑んで、ポケットから綺麗なリボンのついた小さな箱を取り出した。
「リサ。これを君に」
思いがけないことに驚いていると、
「お誕生日おめでとう」
「えっ!?私、すっかり忘れてた。ありがとう!開けていい?」
「どうぞ」
「きれい…」
星の光を閉じ込めたような小さなピアスだった。
「いつも星が君のそばにあって、星に守ってもらえるように」
「本当にありがとう。大切にするね」
私はちょっと涙が出そうになった。
「ところで、今日のリサはあまり元気がないね。何かあった?」
まだ言っていなかったメグのことを話したあとで、私は聞いた。
「今までに、飛ぶのを怖いと思ったことはある?」
宇宙港を見下ろしながら、私の話を聞いていたその人は、ふりかえって、私を見た。
「怖いよ。いつだって怖い。でもそれに慣れたらいけないんだ。そして、君はひとりじゃない。ひとりでは飛べなくても、君のチームが助けてくれる。それを忘れないで」
そのとき、その人の腕で通信機のコール音が鳴った。
「ちょっとごめんね」離れて短いやりとりを交わしたあとで、「もう行かないといけないんだ」すまなそうに言った。
私は首をふった。
「ありがとう。なんか…元気でた。がんばれそうな気がする、私」
「良かった。それじゃ」
「気をつけてね」
「君も」
軽く片手を上げて、展望デッキを出て行くその人を、私は見送った。
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