希望を

モーリスの話

 治療のための長い眠りから目が覚めたとき、僕は申し訳ない気持ちになる。おそらく死ぬほど心配をかけたラディと、ディープには不眠不休をいることになったに違いないから。


(何度同じことを繰り返せば気が済むんだ、大馬鹿野郎と、きっと思っているんだろうな)


 自分が苦しかったり、身体が動かなかったりするのは、べつにかまわないけれど、誰かに辛い思いをさせることは、できたら避けたいとは思っている。時々うるさいお目付役になるふたりだけど。

 

 長期冷凍睡眠の技術がいつか実用化されて、目が覚めたら全て解決されていたらいいのにと思ったりする。

 ああ、でも、古いおとぎ話にあるみたいに、まわりはみんな歳をとって知らない人ばかりでした、というのはイヤだな。

 子供向けのビデオで、死んだはずのヒーローがいとも簡単に復活するのを見るたびに、そんな甘い現実はないと、僕は早くから知っていた。


 僕の今の状態は、一進一退で(でもこれだと一歩進んでは一歩下がることになって、足踏み状態ということになるけど)、体調はいいときもあれば、どうしようもなくて動けない日もある。

 少し良くなったかと思うと、何かをきっかけにしてふりだしに戻る、そこでなんとか踏みとどまって、ゼロあるいはマイナスからやり直し、それを今まで何度もくりかえしてきた。


 できたこと、も、できなかったこともある。

 けれど、今できること、をあきらめることはしたくない。


 最近、嬉しかったのは、グラントから船について相談を受けたこと。調査局に預けていた僕達の船が戻ってきたら、その改造を考えている。僕はもう宇宙に出ることはないから、僕のスキルをAIに移して載せた船で、宇宙を巡ってくれることはとても嬉しい。僕も一緒に宇宙にいる気持ちになれる。

 そのうち、グラントにはオーナーになってもらおう。ふたりへのお祝い代わりになったらいいなと思う。


 そして、リサ!

 リモートだけど、はじめて会ったときから笑顔が素敵で、これから何度も打ち合わせの機会があると思うと楽しみ。(グラントには内緒)

 でも、僕について、グラントから彼女が聞いていたのは、「天才だけど、まわりの言うことに耳を貸さず無茶ばかりする人」だというのはひどくない?

 天才、というのは別にして(グラントにそう言われるのは正直、嬉しい)、確かにその通りなんだけど。

 テスト飛行の計画を少しでも早めることができたらいいなと思っている。


 僕にはこの先へとつながっていく遠い未来を思い浮かべることはできない。わずか数年先のことでも、僕には確約することは難しい。

 見たいなあ、と思う。ふたりを祝福するパーティーでの姿。とくに、リサのドレス姿はきっと素敵にえるだろうから。

 

「信じること」は希望になる。僕にとっては。

 たとえもし、かなわなかったとしても、信じ続ける。

 どんなときでも生きている限り、希望を捨てずにありたいと、僕は思う。


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