ディープの話1

 グラントに婚約している相手がいることを知ったとき(しかもずいぶん前から!)、僕達3人はみんな驚いた。

 ステフは前から知っていたと聞いて追及すると、「隠してたわけじゃないけど、聞かれなかったから」とグラントは平然と言った。


 とにかくそれは、とても嬉しい明るいニュースで、メンタルの影響が大きいモーリスも、ここ数日はいつになく体調が良さそうだった。グラントの「船を持ちたい」という相談にのって欲しいと言われたこともあるのだと思う。


 僕はようやくひとり立ちして、メディカルセンターに自分のオフィスを持つことができた。(先輩ウィン医師の隣だ)

 モーリスは、ネオエネルギー研究所の敷地内に自分の部屋があり、普段はそこで過ごしていて、ほとんど外出することはない。

(ラディとヴァン所長がいつもそばにいる)

 研究所の顧問としての立場と、その他にプログラミングや設計が主な担当で、体調の良いときは、起きてリモートで仕事をしている。


 僕にはモーリスの医学的データが24時間届いていて、そばにいなくても確認できるようにしている。

(何かあれば通知がある。このシステムはモーリス自身が造ったもの)

 数日おきに必要とする医療処置があるモーリスは、ずっと入院しているよりも、僕の方が訪問診療に行くことで、退院して過ごせるようにした。

 

 たぶん今のモーリスの心のり所、支えとなっているのは、ふたりの婚約と、船に関することだろう。ちなみに、グラントの船に関することはモーリスとヴァン所長だけが担当しているので、ラディは関与していない。

(ラディは不服そうだったが。モーリスに、「秘密だからダメ」と強く言われてしまったらしい)

 

 グラント達をお祝いするパーティーについて、ステフから打診があったのは、船のテスト飛行が順調に進んだ頃だった。


 会場は、メディカルセンターのそばで、何かあったらすぐ行ける場所にして、中座しても目立たないようにガーデンパーティーにするという。ステフもグラントも、モーリスの体調を気づかってくれているのが、嬉しかった。


「出席は無理、リモートで」と言ってしまえば簡単だけど、本人は絶対に納得しないに決まっているし、できることなら一緒に同席して欲しいと、僕達の誰もがそう思っていた。


 僕とラディは、どうしたら可能になるのか、考えはじめた。まず当日に向けて、体調を調整していく必要があり、それは大前提だった。車椅子はきっと拒否するだろうから、さりげなく何脚か椅子を置いてもらい、会場には大型のエアカーで行って、モーリスがいつでも休めるように待機しておくことにした。


 

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