リサの物語11

 そのあとの数日間は、事情聴取に現場検証と、私の判断及び技術を問われる日々が続き、私は神経をすり減らした。事故調査報告会では、私の責任を問われることはなく、この事故についてはとりあえず終結した。


 機長からは順調に回復していると連絡があり、審査を合格した知らせと、次の訓練課程への推薦を受けるか打診があった。私の夢は宇宙を飛ぶことだから、迷うことなく承諾し、訓練センターの寮を出て、低位ステーションに移ることになった。   

 

 その手続きと荷物の整理になんとか目処めどがついて、久しぶりのオフの日、私はずっと部屋で眠り続けていた。何度かメールの着信があったけれど、起きられなかった。


 目が覚めたときには、すでに部屋の中がかなり暗くなっていた。


「うわー、今日という日を損した気分」

 私はまだ寝ぼけたままで、そばで点滅している端末を手にした。

「えっ…!」

 いっぺんに目が覚めた。

 その人からは何度かメールがあって、

『起きたら連絡ください。迎えに行きます』最後にそうあった。

『今からすぐ行きます』私はあわてて返信を打ち込んだ。

 (そう言えば、何か話しがあると言っていなかった?)


 会うのはあの事故以来になる。

 とりあえず髪を結び、手早く身支度を整えて、急いで部屋を出た。

 その人のことを、周りでは本当の兄妹だと思っている人も多かったけど、まさかこんな遅い時間に寮まで来てもらうわけにはいかなくて、私は待ち合わせ場所へ走った。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」私は平謝りで、

「リサ、今、起きたの?まぁ、君はいろいろ大変だったからね」

 笑いながら、息を切らしてる私にドリンクを手渡してくれて、エアカーで行った場所は…。


「え?ここって…?」

「そう、僕の部屋。どうぞ」

 ドアを開けてくれた。

 はじめて、だった。

「部屋、あるんだ…」

「もちろん、あるよ。宇宙から戻っているときは、ホテル住まいだとでも思ってたの?」

 その人は穏やかに笑った。

「適当に座っててね」


 私は座って部屋の中を見まわした。最低限の家具のほかには、何もないと言えるような簡素な部屋。

 そのとき、私のお腹が盛大に空腹を訴えて、何も食べていなかったことを思い出した。

 その人は小さく吹き出した。

「何か食べる?もう遅い時間だから、軽いものがいいかな」

「料理、するんだ」

「家にいるときは、します」そこで何かを思い出したらしく、笑いながら、「とっても口が悪くて、でも料理の上手い友達がいて、同じ船に乗っているとき、鍛えられたから」


 今日は驚かされることばかりだ。私はこの人の日常について、何も知らない。


 手早く作ってくれた温かい食事がお腹におさまって、ようやく人心地がついた。

「ごちそうさまでした!」

 私は両手を合わせた。

 それから、ふたりでテーブルを片付けた。

「何か飲む?コーヒーでいい?」

「うん」

 私もその人も業務に支障があるから、アルコールの類はほとんど飲まなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る