一年後
一年後気持ちの良い春風の吹くある日
「エレノアおめでとう!とっても綺麗よ!」
「羨ましいぞクリストファー。妖精の歌姫と結婚できるなんて!!」
少人数での結婚式を終えて、侯爵家の庭にやってきた二人を、お祝いに集まった多くの人が祝福していた。
二人が出会ったあの庭で。
クリスがプロポーズしてくれてからも色々な事があった。すぐに正式に結婚の申し込みをしてくれたリッベン家だったけど、お父様に次の婚約は三か月は待ちなさいと言われてしまったり(普通は半年は期間を空けるものだそうで、それでも大分短いらしい)。
その間、エレノアの歌の評判を聞きつけた貴族がこぞってプロポーズしてきて、中には随分強引なお話もあったようで。お父様やクリストファーが色々と頑張ってくれたみたい(会った事もないような人と結婚なんてするわけないのに)。
ブライアンは、最初はマーロウ家からは婚約の破棄だけで特に違約金など求めなかったのだけど(口約束だったし)。
その後もエレノアに付きまとい続け、エレノアの出る舞台に招待状もないのに不法侵入して「僕の婚約者だ!!」などと叫んだりするので、警備につまみ出され、王妃のお気に入りにつき纏う不埒な輩として王家からロッソ家に厳重注意があったとか。
その件の後、ロッソ家からは即座にマーロウ家に多額の慰謝料が送られてきた。
そして次男のブライアンを早々に切り捨てロッソ家の存続を確保。今ではブライアンは、厳しいと評判の鉱山で、親方に見張られながら一労働者として働いているらしい(ただの貴族籍はく奪だけだと、口八丁で成り上がってすぐに帰ってきてしまいそうだからとのことだ)。
あの、元マーロウ家のメイドと一緒に。
「エレノア。準備は良い?今日は今までで一番良い舞台にしましょうね。」
「ええソフィア。あなたと一緒に、この庭で。クリスに見守られて歌うのだもの。きっと今までで一番よ。」
この日の為に設置された舞台の上に上がり、会場を見渡す。
お父様とお母様。侯爵夫妻が心からの笑顔を向けてくれている。ソフィアやクリスに紹介され、ここ一年で仲良くなった友人たちの顔もある。
特別に休暇を取って見に来てくれたセバスチャン。もっと真ん中の方に来てくれたら良いのに。
目立たないようにはしているけれど、高貴さが隠しきれていないお忍びの王妃様。
エレノアのファンクラブ?とやらを作って会長になっている?とかいう噂があるけれど、詳しくは知らない。
他にも大好きな人たちが、エレノアの歌を心待ちにしている。
そしてもちろん、一番前で、エレノアの事をまるで眩しい物を見るような表情で見つめてくれているのが―――――
*****
「クリストファー、おめでとう!いやー、長かったな。この日がくるまで。お前本当に頑張ってたな。」
「余計なお世話だ。・・・・ありがとう、ダニエル。」
「エレノアちゃん、あの日以来大人気だからなー。」
「公爵の後添えにって随分粘られたんだろう?」
「歌声を聞いた隣国の王族が、連れて帰るって騒いだって聞いたぞ。」
「俺も実はずっと前から清楚で可愛いなーって思ってたんだよ。それがあんなに華やかに変身するなんて。」
「俺も俺も!」
気心の知れた友人たちが、面白がってワザとらしく盛り上がっている。
世界一幸せな花婿へのちょっとしたイジワルだ。
「これは、結婚してからも安心は出来ないな。ほら、花嫁が歌うぞ。一声かけてこい。」
「あいつら覚えてろ・・・・行ってくる。」
*****
「クリス。いつでも聞けるのだからもう飽きてしまっているかもしれないけど。今日もあなたに向けて歌うわ。聞いていてね。」
「・・・・飽きる事なんて、一生ないよ。いつだってドキドキして、聴くたびに好きになる。君には本当に翻弄されてばっかりだ。」
この歌を初めて聞いたあの日から。
心を掴まれて揺さぶられたあの日からずっと。
そして一生、何度でも君に恋をする。
この歌を聴くたびに。
君には振り回されてばかりだ。僕だけの歌姫。
エレノア・マーロウの決意 kae @kae20231130
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます