短編102話 数あるげた箱計画三分間
帝王Tsuyamasama
短編102話 数あるげた箱計画三分間
僕、
朝の準備を三分早めるのか、昨日の夜の寝る時間を三分早めるのか。どのタイミングで三分という時間を作るかは様々な方法が考えられるけど、最終的には……
いつも登校するときに、決まった十字路の辺りで真穂ちゃんと会う。いつもならば、似たような時間に家を出て、真穂ちゃんいないかなーってちらっちらっ十字路付近を見るくらいでよかった。
だけど今日は三分早く家を出て、三分早くげた箱に到着する予定だったのだ。
……なんで三分かって? 一分や二分だと、目視で見つかっちゃいそうじゃん。三分早く家を出て、ちょっと小走りで学校へ向かい、学校に着いたら深呼吸などして気合を入れれば、やっぱり三分くらいの余裕ができそう……じゃん。
だがっ。そんな僕の計画は……
「おはようっ」
「お、おはーよ……」
三分早く通過する予定だった十字路で、真穂ちゃんと
髪は肩にかかるくらい。学校へ行くので、セーラー服装備。僕は学生服装備。
声ちょっとゆったり気味な、おとなしい感じの女子、かな。学校指定の紺色
僕はそれに合わせて、左肩から右側へ掛けるようにしている。だいたい一緒に歩くときは、左側に真穂ちゃん、右側が僕だからだ。
本日も真穂ちゃんの元気なお姿を見られたことは、大変喜ばしいです。がっ。
(なぜ三分早く出ていつもと展開が同じなのだ!)
僕の計画がぁ。
「きょ、今日は早いね真穂ちゃんっ」
ここは一応聞いておこう。今後の参考のために。
「一時間目、理科だから」
(……………………くっ)
今日の理科の授業は、第一理科教室で行われるのであった。
(たまに真穂ちゃんと朝会わない日があったけど……こういうことかっ)
今度から気をつけておこう……。
(とにかくこれじゃあ、計画は延期かぁ……)
説明しよう! そもそもなぜぉ手ぇ紙を出そうと思ったかっ。
登校は一緒のタイミングになることが多い真穂ちゃんだけど、下校はそんなに一緒になることはなく、珍しい方。だけど昨日は、一緒に帰ることができて。
なんか知らないけど、昨日の真穂ちゃん、いつもよりもよく笑っている感じで。この十字路で別れる間際の笑顔なんて、な、なんか、なんかこう。めっちゃ思い出しちゃってさ!
それでもうそのままの勢いでというか、その、まぁ、今度一緒に遊びましょうのお手紙を書いたのだった。
あいやまぁその、それくらい口で言えばいいんだけど……まだ真穂ちゃんと学校以外で遊ぶとか、なくてさっ。何度か誘おうとはしたけど、いざ真穂ちゃんが目の前にいると、なんか言い出せなくて。緊張、かな。
幼稚園のときからお互い知っていて、小学校でもクラスが一緒になると、割と教室とかでしゃべることもあった。
中学校になってすぐ、この十字路で会ったとき、一緒に登校して。それから今まで、週に三回くらいは一緒に登校している。うまくいけば週五のときもある。
もちろんそれからは、学校内でしゃべる回数も増えたと思う。
……だからそろそろ休みの日に遊びたいんだよぉ!
真穂ちゃんはおとなしい系女子なので、学校に着くまであんまりしゃべらないこともある。まぁそれって僕が緊張して何の話題を出そうか考えているまま、時が過ぎ去っていったときのことなんだけれども。
僕がしゃべれば、返事をくれる。おとなしい感じなのに、そういうところはまじめに返してくれるのが真穂ちゃん。
だから僕はもっと、真穂ちゃんを楽しませてあげたい。ってなる。
(……待てよ?)
なにも登校のタイミングじゃなくても……いいんじゃ?
登校前がだめなら、下校前とかさ。三分早くげた箱に着けばいいことには変わりないじゃないか!
(よしその作戦でいこうか!)
ぁ真穂ちゃんこっち向いてる。
「な、なんだい?」
「なにか……いいことあったの?」
「うぇ」
これは……どういう分類になるんだろう。いいにカウントするのか悪いにカウントするのか。
「……まぁ、そう、かな!」
「どんなこと?」
「ぐっ」
それをそんなやんわり笑顔で聞いてきて……。
「……み、未来への道筋が、見えた……みたいな?」
あーうん、真穂ちゃんはてなまーく浮かべてるのめっちゃ見える。
授業を受けている間。休み時間の間。掃除の時間の間。
僕は真穂ちゃんのことばかりを考えながらも、無事中学二年生生活の一日を乗り切った。
さすがに帰りは三分間の時間を作れたかどうかはわからないけど、可能な限り早く、帰る準備を済ませて、げた箱へ向かった。
「……や、やあ……早いね…………」
だからなんで笑顔の真穂ちゃんいるんだよおおお!!
「今日は、早くお片づけができたの」
「そ、そうなんだ……」
ああ……行きも帰りも真穂ちゃんと会えるのはついているはずなのに、なんで今日に限ってそっちに強運が働くのだろうか……。
帰りも真穂ちゃんと一緒。うん、うれしいよ。楽しいよ。でもね、計画の更なる延期が決定いたしました……。
ところで僕は、真穂ちゃんとのおしゃべりがない時間でも、どきどきかつうれしい感じなんだけど……真穂ちゃん側はどうなんだろう。
気にはなるけど……どきどきしてまっか?! なんて聞けるはずもなく。
(でも僕のことが嫌だったら、一緒に帰るなんてこと、しないよな……)
「ま、真穂ちゃんはさ」
こっち向いた真穂ちゃん。本日もすてき。
「僕と~……一緒にいてて、楽しい?」
なんか、どう聞こうか考えながら言葉を発したら、こんな聞き方になってしまった。
「うん……?」
うんとは言ってくれたものの、そりゃいきなりそんなこと聞いてなんなんや~な表情になるよね。
「ぼ、僕も~……楽しい」
ああその笑顔最高。
「また一緒に登校と下校……していい?」
……あれ、ちょっと待て僕。じゃあ計画の実行はいつになるのだっ。
「うん」
だが真穂ちゃんのうんが炸裂してしまった。
「あー……りがと」
もちろんうれしい。いい。すばらしい。だがそうなると、一体いつお休みの日に遊びませんかを誘えるというのだ!
「……雪智くんと、もっと一緒に……おしゃべりしたい」
そんなのもちろん僕だってさあ! だから誘いたいんだ! だからお手紙をげた箱に入れたいんだぁ!
「も、もちろん僕だって!」
なぜが右手に握りこぶしを作ってしまった。まったくガッツポーズでもなんでもないのに。
……そしてしばらくまた、声がない時間。右手の力ゆるめとこ。
のままやってきたいつもの十字路。
今日も真穂ちゃんはすてきな……笑顔? と思ったけど、ちょっと様子が違う?
「え、えとー……じゃあ?」
まぁ、十字路ですので。
真穂ちゃんは、ゆっくり右手を上げて、少しふりふり。
少し距離が離れようがなんだろうが、真穂ちゃんの笑顔は強烈なので、僕はあんまり直視できなかった。
(はー。三分間作戦は、登下校ともに失敗かー)
僕は家に帰ってから、気を紛らすかのように国語の宿題に取り掛かった。量はそんなに多くない。
で、終わった後、ベッドにダイブ。長く使っている、薄い水色の掛け布団。中に入ろ。
もっと古く、物心ついたときから使っている、戦隊物の枕。小学校の……四年くらい? のときに、中身を大きい物に変えた。
(さーてっと……明日とあさっては土日なんだから、また月曜日以降、チャンスがあったらにしようかな……)
ちょっとうとうと。目閉じよっかな。
「雪智~、電話よー」
(ん~……んんっ?)
なにやらノック音とともに、声が聞こえたような~……。
「笹野井さんっていう子よー」
(はーささのいさんねー、ふぅ~ん……)
あーいつの間にか寝ちゃってたなー。ごはんの時間……? まだ外はそんなに暗くな
(ささのいさんー?!)
僕は布団から飛び出して、部屋のドアを開けた。
「も、もしもしお電話替わりました!」
『こんばんは、雪智くん』
「こここんばんはこんばんは!」
(ぇええなになになんだなんだぁ?!)
電話の向こうから、笹野井さん
『さっき、言いたいなって思ったことがあって……今、いい……?』
「い、いいたいな? ああどうぞどうぞ! な、なにっ?」
な、なんだろ。僕なんか変なこと言ったっけ……こんなわざわざ電話なんていう手段でっ。
(クラス連絡網でも見たのかな)
『……明日……遊びたい』
(ふむふむ)
…………ん?
「えっ?」
あ、えっと……えっ?
『……明日、遊びたいっ』
「ぇああえと、き、聞こえてるようんうん感度良好」
えとー……笑ってくれているお顔は、想像できる。
『……だめ?』
「だ、だめだなんてそんな! 真穂ちゃんに言われてだめなことなんてこの世にないっ」
やはり意味不明なことを言ってしまったと思うけど、きっと真穂ちゃん笑ってる。
『お外で遊ぶ? おうちの中がいい?』
「うぇっとぉ…………」
ちくたくちくたく。
「……おうち?」
『じゃあ……十時に、いつも朝会うところ……』
あーうん間違いなくあの十字路だよねうんうん。
「いつもの十字路に十時。覚えやすい。承知いたしました」
受話器越しでもわかっちゃう真穂ちゃんの笑顔。
『……じゃあ、明日……』
「あ、う、うん」
……ぁ、無の時間を作ってしまった。
『……おやすみなさい?』
「……ごはん食べてないけど?」
今度はめっちゃ笑った真穂ちゃん。
『また、明日っ』
「あ、また、明日」
……なんてお言葉を聞いたあと、ぷつっ、つーつーつー。
受話器下ろそ。ちーん。あぁうち黒電話なんだよ。
ちょっと深呼吸しようか。すぅーっ……はぁーっ…………。
(三分間なんていらなかったのかーーー!!)
より真穂ちゃんのことを好きになりましたとさ。明日楽しみすぎ。で、どっちのおうち? 明日会ったら直接聞こう。
短編102話 数あるげた箱計画三分間 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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