第2話


青年「ここが異世界か…あまり自分の方の世界と変わらないように見えるが…。」

ぱっと見たところは、外国の森の中といったふうに感じられる。


女神「早速だけど、こちらの世界での戦い方を教えるわ。貴方はプレイヤーとなってカードで戦うの。まずはこれを渡すわね」


女神が両手の手のひらを上に向けて、何か呪文を呟くと、手の上に長方形の立方体であるケースが現れた。

女神「け、結構重いから気を付けて…早く受け取って!」

片手でケースを受け取る青年。

青年「なるほど見た目のイメージより重いな」

女神「あなた、そのケースを片手で持てるの?!」

青年「野球で鍛えているからだろうな」

女神「そ、そうなんだ。(野球って、彼の世界のスポーツよね?そんなにハードなの?)」

心中複雑ながらも感心する女神。


女神「次はカードの調達ね!カードケースの保持者である貴方が『ガチャを引く』と宣言すれば、ガチャのボタンが目の前に現れて、ボタンを押せばカードがゲット出来るわ。今なら100連分のガチャが無料よ!」

青年「…声がはずんでいるが、ガチャが好きなのか?」

顔を赤くして羞恥の表情を見せる女神。

女神「そ、そういうワケでは無いんだけど。ガチャで引いたカードの強さがそのまま戦闘力になるのよ。カードの種類はウルトラレア、スーパーレア、レア、の3種類。なんなら10連か20連はこの女神が豪運で引いてあげても良いわよ」

声が弾み、ウズウズしている女神。やはりガチャを引きたそうではある。


青年「まずはボタンを出すんだな。“ガチャを引く”」

青年が言うと、ちゃんとボタンが現れた。

あまりにも女神がウズウズしているので青年から声を掛けた。

青年「ガチャ引いてみてくれないか」

女神「いいの!?任せて!」

そう言ってボタンの前に立ち、目を閉じて精神集中を始める女神。

程なくして目を見開き、叫びながら女神はボタンを押した。

女神「こい!!ウルトラレア!!」


ブブー

ボタンからブザー音が鳴っただけで、何も起こらない。


女神「…え?なんで??」

女神はボタンを連打してみるが、やはりブザー音が鳴るだけで何も起こらなかった。


やがて表情に怒気を浮かべ、金色のゲートトンネルを作ってそちらに向かって叫ぶ女神。

女神「おい運営!ちょっとどういう事!?緊急メンテナンス?何も聞いてないわよ!」


「どうしたんですか?大きな声を出して。女神さん」

金色のゲートトンネルの中から小太りな男性が現れた。


女神「ちょっと運営さん、ガチャが押せないんだけど」

運営「え?そんなはずは…」

そう言いながらボタンを見て、次に青年と、その手に持っているカードケースを見た運営。

運営「あ。これは無理ですよ」

運営は見ただけでガチャが出来ない原因が解ったようだ。

女神「な、なんで?」

運営「その青年がプレイヤーなんですよね?彼、住人でも無ければ転生者でも無いじゃないですか」

女神「あ!」

この時、女神は思い出した、転生せずに異世界に行ったことによって起こる“マズい事”、つまり転生者でない青年には無料ガチャを引く権利がない、という事を。


運営「それでは私はこれで…」

そう言って金色のゲートトンネルに戻ろうとする運営を女神が引き留める。

女神「ちょっと待って!な、なんとかならない、カナ?」

精一杯の笑顔で、かわいく首を傾けて言う女神。だが…

運営「ダメですよ。“ルールどおり、厳格に運営するように”とおっしゃったのは女神様じゃないですか」

女神「くっ」

運営「金貨でガチャチケットを買ってもらうにしても、彼はこの世界の金貨をまだ持ってないですし。」

女神「私が金貨を払うわよ!払えば良いんでしょっ!」

そう言って女神は財布を取り出し、震える手で中から金貨を1枚取り出した。

女神「いっ、1連ガチャ、購入よ…」


-


女神「さて…」

運営の男が引き上げた後、改めてガチャを1回引くのだが…1回しか引けないのである。

100連の中の10回、20回と1連だけの1回では責任の重大さが違う。のだが

青年「じゃあガチャとやらは任せた。頼んだぞ」

そんな事情を青年はあまり理解していないようで、軽く女神にガチャを任せた。

“1連しか引けない”と発覚する前に“自分がガチャを引く”と言った手前、女神も後に引けない。

女神「ま、任せなさい。必ずウルトラレアを引いて見せるわ。」

まゆをしかめ、ここ一番の気合いと共に、女神が力強くボタンを押した。

女神「はぁああああああ!!!!!」

大した演出もなくサクっとカードが現れた。


女神「…レアね…回復系の…」


カードには少女が描かれており、星が1つ、カードの端に記されている。

カードには文字らしきものも記載されているが、異世界の文字なのだろう、青年は読むことが出来なかった。


カードの中の少女が動き出し、残念そうにしている女神を見つつ、持ち主であろう青年から目を反らして、申し訳なさそうな顔をしながら消え入りそうな声でしゃべりだす。

回復カードの少女「…す、すいませんレアで…」

目に涙を貯め、今にも泣きだしそうなカードの少女。


カードを手に取り、青年がカードに向けて語り掛ける。

青年「レアか、良い名前じゃないか」

女神「いや名前じゃなくて」

青年「大丈夫だ。君は充分すばらしい。なんの問題もない。顔を上げるんだ」

カードの中の少女の顔が晴れる。涙を拭いながら少女は笑顔で元気に答えた。

回復カードの少女「はい!私、頑張ります!」


女神「…なんか私一人、悪者みたいになってない?…」


-


その時、少し離れたところから声が届いた。

「見つけたぞ、女神。という事は隣にいるのが異世界から来た勇者か」


声がした方向を見て、発声した者の顔を見た女神が顔を歪ませながら言う

女神「ま、魔王その1!!」

魔王その1「勇者を呼び寄せるとの噂を聞いて来てみれば…。やはり噂は本当だったか」

女神「ちょ、ちょっと待ってよ。こういうのってまずは弱いモンスターから順番にレベルアップしていくもんなんじゃないの?」

魔王その1「そんな決まりは無いだろう。それに、いくさが終わり、平穏の世界を甘受している部下たちを再び戦場に駆り出す事を、私自身が良しとしなかったのだ」

青年「案外、良い奴なんじゃないか?」

魔王その1が青年の方を見て、カードケースを出して言う。

魔王その1「さあ勇者よ、正々堂々勝負しろ」

女神「ちょ、ちょっとまって!まだろくに勝負の仕方を教えていないのよ」

魔王その1「なに?…やむをえん、しばしの間、猶予を与えよう。まあ見たところ、手持ちのカードは1枚のようだな。結果が変わるとは思えんな」


女神(…そうだった。カード1枚、しかも回復のレアカードだと攻撃力は1か2しかない。そうなると…)

女神が青年に向かって言う。

女神「相手と交互にターンを持ちまわってバトルは行われるのよ、自分のターンの時にカードケースからカードを1枚抜いて、そのカードで攻撃するか防御するかを宣言するの。もしくはプレイヤーが直接ダイレクト攻撃する事も可能だけど…」

青年「似たような事を俺の世界でも友人がやっていたな。俺は野球のトレーニングを優先していたので参加しなかったが」

女神が魔王その1の方を向いて言う。

女神「せめて先攻は譲りなさいよ」

魔王その1「かまわん。」

女神「さあ青年、カードを引いて」

青年が言われるままにカードケースからカードを引く。ケースの中には1枚しかカードが無いので、そのカードがそのまま出てきた。先ほど入手した“回復カードの少女(レア)”だ。

女神「そのカードは攻撃力がほぼ無いので“防御”を宣言して場に置くしか無いわ。それでターンエンドよ」

言われるままに防御を宣言してカードを前に出す青年。

そうすると空中でそのカードが光り、カードに書かれた少女がイラストそのままの姿で目の前に現れた。

回復カードの少女「が、がんばります!」

少女の頭上には“防御”の文字が表示されている。


魔王その1「ヌシのターンエンドだな?それでは私のターン、カードをドロー!」

仰々しく魔王その1がカードケースからカードを引きぬき、そのカードを一瞥いちべつして魔王はニヤリと笑いながら言った。

魔王その1「終わりだ。勇者よ」

そう言いながら青年と女神の方にカードを見せつける魔王その1。


カードには星が3つ記されており、ライオンの顔をした獣人が描かれている。

女神も魔王その1が引いたカードを認識したのだろう。驚愕しながら女神が言う

女神「ウ、ウルトラレアの攻撃モンスター!」

得意げな顔をし、魔王その1が言う。

魔王その1「仮にも魔王だからな。カードケースの中にはウルトラレアかスーパーレアしか入っとらん」

女神「お、大人げない!」

魔王その1「ふん、何とでも言うがよい」

そう言いながら魔王はカードを持った手を上にあげた後、カードを前に出して宣言した。

魔王その1「ライオンマンを”攻撃”で場にセット。まずは相手の防御カードを攻撃する」

フィールドに顔がライオンの獣人が現れて、しょんぼりしながら言った

ライオンマン「…そのダサイ名前で呼ばないで…」

女神「第一弾のカードだったからね。対象年齢が低めのネーミングだったのよ」


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