第6話ベルセンサー

俺は走った。スマホはランプをチカチカ点滅させ続けている。

ああもっと、もっと速く。白い袋から何かが飛び出して落ちた気がする。それでも止まっちゃいけない。


おばけ屋敷に向かう帰り道はもう真っ暗だった。管理室から漏れる蛍光灯の光が星みたいに小さく瞬いてはいたけど。

俺は必死で走った。

ズボンのポケットに押し込んだスマホがバイブと一緒にランプを激しく点滅させている。嘘っぱちのアプリだ。気にすることない。

そうは思えないほど心臓がばくばく言ってるんだ。

いる。後ろに何かいる。

まだ遠く離れてはいるけど、それは確かに俺の後ろにいる。

噂のアレが、先輩の言っていたアレが、今、俺の後ろを、俺の、後ろに!

空気が異様にビリビリ震えている。こんなの、こんなの、おかしいだろ!

俺は走った。後ろを振り返らないように、まっすぐ前だけを見て走った。


りん。

りんりん。

りりんりりん。

りりりりりりりり。

りりりりりりりりりりりりりりりり。

り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛り゛


ぶら下がった鈴の近くを通り過ぎる。その少し後から鳴らないはずの鈴が音を出し始める。始めは小さく、だんだん大きく、鈴は震えていく。

俺は走った。止まっちゃいけないと本能が何かを感知している。見えない何かを、見ちゃいけないナニカを。

それはきっとそいつじゃない。そいつらだ。何人も俺を追ってくる。人じゃない。足音は聞こえない。そいつらには足はない。そいつらは絶対生きていない!

俺は走った。俺は逃げた。俺は、俺は。




ナニから逃げているんだ?




鈴は激しく震えている。ポケットのスマホも震えている。




感知しないはずのモノが遊園地の中にいる。関知できない、してはいけないモノだ。だから鈴を吊るす。

鈴はソレを感知して震える。ソレが近づけば鈴は鳴る。あのアプリもそういうもんだったはずだ。

今、鈴は激しく震えて鳴っている。その意味は。




俺は走った。




おばけ屋敷の中に逃げ込んだ俺は扉を閉めて、すぐに鍵をかけた。その場にしゃがみこんで頭を抱えた。

鈴は激しく鳴っている。

すぐそこにナニカがいるんだ。ナニカが。

先輩の話は本当だった。この遊園地には何かがいる。ナニカが出る。




鈴は一晩震え続けた。




遊園地中にある全部の鈴が鳴っていた気がする。頭が痛いくらいに。音にだってならなくなるくらいに、鈴は震え続けた。




鈴たちは、何を、感知していたんだろう。







その夜、俺は監視カメラも観れていない。

朝交代で戻ってきた上司にそれを言ったらさ、まあそうだよなで終わった。

鈴はもう鳴っていなかった。

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