第4話アプリセンサー
それでも何かのきっかけで知ることになるのは、これ、あれだろ。フラグとか運命ってやつだ。
俺にとってのそれは回避できそうでできない、自然に一体化してる機会だった。だからこそ避けられないんだな。
バイトで夜勤することになった。
体調不良で夜勤だった人が急に休みになったんだ。その日たまたま俺は出勤してて、次の日もその次の日もたまたま休みだった。夜勤の内容は監視カメラのチェックだけでサルでもできる。代わりに延長することになったんだ。徹夜だよ。
マジありえねーって。始めはそんな風に言ったんだけど、夜勤手当てと残業代追加してくれるってことで了承した。それにずっとカメラに付きっきりってわけじゃなくて、本とかネット、ゲームもしていい。ならいいですって言うしかねえだろ。俺は金欠だったんだ。
ただし夜の間は外に出てはいけない。それだけは守れ。
あの噂に関係してるってピンときたよ。遊園地の中ではそれがルールだった。用事がなければ夜に出るな。
上司も同じことを言った。先輩から聞いているかと思うがっていう前置きをしてな。
夜は長い。遊園地の、それもおばけ屋敷の中で一晩過ごすなんてたまったもんじゃねえよ。ネットやらゲームやらで暇潰しができるからいいって言ったんだ。
でもなあ。
さすがに空腹だけは我慢できない。
俺は閉園ぎりぎりの時間に園内のコンビニに向かった。その時はまだ日が半分も落ちていなかった。
だから、戻ってくるまで時間があるだろう。今行けばまだ間に合うだろう。そう思っていた。
完全に読み間違えたんだ。
日はどんどん沈んでいった。観覧車の影が大きくなって、闇に消えていった。馬とコーヒーカップにはライトが点灯し、閉園間際の花道を作った。そうなったらあと何分で門は閉じられる。頭の中ではしっかり計算できていた。できていたはずだったんだ。
日没時間なんてそんな気にしてなかったんだ。毎日ちょっとずつ夜の長さが変わっていたことも。
おばけ屋敷とコンビニの丁度中間地点にあるミラーハウスの前で、日は完全に沈みきった。
夜がやって来た。
俺は焦った。理由はわかんねえ。でも何となくその夜が嫌だった。
一人の夜が怖かった。
先輩と一緒じゃない暗闇を行く帰り道が怖かった。
俺はいつの間にか駆け足になっていた。
たったったっ、っていう俺の足音が足の裏から聞こえた。それを後ろに落としながら
走った。
走った。
走った。
何かに怯えている。自分でそれを自覚した時だよ。後ろから足音が聞こえてきたのは。
自分のじゃないもう一人の足音が後ろからやって来る。近づいてくる。ヤバい。ヤバい。それしか頭になかった。
その時だよ。
ポケットの中に入れておいたスマホがふるえたんだ。
着信か? 通知か? 違うね。俺はあのアプリだけ特別な着信音を設定していた。先輩が他のと違うってわかるようにしとけって念を押してたからだ。だから着信音とバイブ、両方を目立つように設定した。
着信音は有名な時代劇で流れる殺陣のテーマ。バイブは三三七拍子。
これは目立つだろと思って、俺はそう設定した。
その三三七拍子がズボンのポケットから感じるんだ。
あべのせいめいが何かを感知している。こう言うと笑い事だけど、実際俺の背筋には嫌な汗が伝ってたし、鳥肌もばちくそたちまくり。
後ろからなんだよ。
後ろから。
何かがやって来る。
ふるえは大きくなっていった。スマホも、俺の体も。ガタガタ震えてた。
歩く度に、近づく度に、あべのせいめいは感知したナニカを俺に伝えてくる。
どんどん速く。どんどん大きく。もう、限界だって思った時に、俺は後ろから肩を叩かれた。
「おい、門はそっちじゃねえぞ」
先輩だった。
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