第3話ウワサ

その遊園地には出る。時間は夜、日が沈んで暗くなってから。日が昇るまでの時間は注意すべし。

その遊園地には出る。どういうものが出るのかは見てはいけない。

その遊園地に出るモノは後ろからやって来る。後ろから徐々に近づいてくる。だから振り向いてはいけない。

その遊園地に出るモノは遊園地の中を歩き回る。ただし施設の中には入ってこられない。守護の鈴を四方へ吊るせ。鈴がなければ外と同じである。

その遊園地に出るモノはいるものではない。出るモノは外からやって来た悪いモノである。出るモノは出ていくことができずに居座り続けている。

その遊園地には出る。その遊園地から出ればそれらは追ってこられない。遊園地から出られないのならば守護を得ている施設の中へと逃げ込め。守護なき場所ではそれらはどこまでも追ってくる。

振り向くな。逃げよ。

鈴を鳴らせ。鳴らし続けて朝を待て。




俺が先輩から聞いたのはこういう話だった。




だから先輩は俺にアプリを入れさせた。

ここでそのせいめいさんの説明な。あべのせいめいっていう嘘っぽいアプリは、幽霊的なものが近づくと音を鳴らして知らせるアプリだ。近づけば近づくほど音が大きくなる。マナーモードにしてもバイブになるだけで、センサーはちゃんと反応するらしい。

何に反応してるかは、それこそ謎だろ。とにかく何かを感知して所持者にそれを知らせる。そういうアプリだ。

そんなアプリを俺のスマホにほぼ無理矢理入れた先輩が言う話。最初こそ嘘っぽく聞こえたよ。でもな、施設のいたるとこに鈴がぶら下がってんだなぁ、これが。

その鈴は一つの施設に四つ、ぶら下がってる。入り口とか、出口とか、まあそういうこと。方角的に四方だろうなって。

しかもそれが鳴ってるのは見たことがない。いや、聴いたことが、かな。風で揺れてても鳴らないんだよ、その鈴。


遊園地の一角に二十四時間営業してるコンビニがあってさ、もちろんそこの店内にも鈴はぶら下がってる。俺、見てたことがあるんだ。店内から。

客が来る度に鳴る入店音。開くドア。その上に吊るされた鈴。

ぶらぶら揺れる。ドアが開く度に鈴は揺れる。

でも一度だって鈴は鳴らない。


開閉が激しいコンビニの入り口でこれなんだからさ、他の鈴が鳴るはずねえじゃん。

そこで俺はやっと先輩の話を信じたんだ。


夜、遊園地の中で振り向いてはいけない。

あべのせいめいのアプリが外で鳴ったら、すぐに鈴がぶら下がってる施設に逃げ込め。それか遊園地の外へ出ろ。

絶対に振り向くな。絶対、絶対に振り向くな。


後ろからやって来るナニカを振り向いて見てはいけない。




本当に本当の話なのかって?

だからさあ、見た奴はいないの。いないんだって。

見てないってことじゃない。見たからいなくなるんだ。

ほら、意味解るだろ?

見た奴はいない。


その話の大元が何なのかなんて知らないさ。でも怖くて恐い話にはモトがある。どんな話でも、な。

そんときばっかは知りたくなかった。

だってその園内でバイトしてるんだぜ?

知ったら即辞めるに決まってんだろ。

俺は誰にも訊かなかった。あの先輩にも。

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