第32話 アイドールネーム

 数日後、DODの5人はREVEROFリバロブの事務所に招集された。


「お前らにはそれぞれアイドールネームを付けさせてもらう」


 ピンときた八ツ波やつなみが挙手して発言する。


「あ!"ETSUエツ"みたいな英語の名前ですよね!」

「そうだ。一応こっちで決めたものがあるが…最終判断はお前らに任せる」


 いよいよアイドルらしくなってきたことを実感し本明ほんみょうもテンションが上がる。


「うわぁ…楽しみです…!どんな名前がもらえるんでしょう?」


 マネージャー河岸かわぎしが説明すると、俵田たわらだは納得する。


「DOAや第一期のDODを見て分かる通り、アイドールネームは本名で呼ばれることはないんだ」

「確かに、ETSUさんは悦叶えっかで、MIWミウさんは美憂みゆ。似て非なるものね」

「そう、だから君達にもそんなアイドールネームを考えてきたんだ」


 鮫山の部下の松江がホワイトボードに書き記す。


 本明ほんみょうあめRAYレイ

 八ツ波やつなみ希野きのKEYキー

 俵田たわらだ彩世いろせROZEロゼ

 百百塚ももづかすずLINリン


 雨…RAYはこの名前の意味について問うと、鮫山が説明する。


「RAY…これはどういう意味ですか?」

「雨の英語のRAINから取ろうと思ったんだが、RAYは"日光"という意味があるそうだ」

「日光…?名前と真逆じゃないですか?」

「僕が提案した」

「えっ?ETSUさんが?」


 意外にも、名付け親はETSUだった。


「変わりたいって言ってたから。アイドルでいる時、つまりRAYでいる時にはRAYであってほしいんだ。

 もっとも…もう雨は合宿で大きく変われただろうけど」

「…私の為にそんなところまで考えてくださって…!私気に入りました!」


 続けて希野…KEYは自分のアイドールネームを都合よく解釈していた。


「私のKEYは…もしかしてDODのカナメという意味で付けたんですね?」

「別にそう取ってくれて構わない」

「まあ、リーダー候補筆頭の私にはピッタリかもね!」


 彩世…ROZEもまだしっくりこないようだ。

 名付け親は河岸。


「ロゼ?」

「そう。彩世さんの名前から取って…ぼ、僕が考えたんだけど、ダメだったかな…?」

「いいえ、綺麗で私はとてもいいと思うわ。

 ただ…」

「や、やっぱりまずかった?」

「ちょっと私にはカッコよすぎるかも♪名前に見合った活躍ができるように頑張ります」


 鈴…LINは自分の新しい名前に納得していた。


「なるほど〜、鈴を別の読み方にしてるんだ!皆ちゃんと考えられてていいね!」


 皆異論はなさそうだった。


「これからDODとして活動する際はアイドールネームでするように。SNSの公式アカウントも作成済みだ」

「ここから始まるんだ…!」


 ETSUがまた苦言を呈する。

 だがLINは楽しそうだ。


「みんな浮かれすぎ。リアイドールだってあるし、手は抜けないからね」

「ETSU、ウチらだって苦労してここまで来たんだ。そう簡単に落ちたりしないよ!」

「だといいけど」


 KEYは思い出したように鮫山に問いかけた。


「そうだプロデューサー!DODって誰がリーダーになるの?」


 鮫山は全員に目を配り、こう言った。


「誰が適任だと思う?お前らで決めろ」

「えっ」

「…まあ」

「…ねえ?」


 全員がETSUの方を見た。


「…何?」

「ETSUさんしかいないですよね!」

「ま、いつか奪うから今だけは愉悦ゆえつに浸っててよ」

「よろしくね、リーダー」

「どこまででも付いてくよっ!」


 鮫山はほくそ笑んだ。


「…決まりだな」

「KEYは反論ないわけ?」

「言ったでしょ、奪うって。ファンのみんなに私の方がすごいって分からせて、いつか正式にリーダーになるの」

「何十年かかるだろうね」

「はっ、何ヶ月で十分だわ」


 ETSUとKEYはDODになっても相変わらずだった。


「というわけで、ETSU。引き続きDODを頼むぞ」

「………はい」


 リアイドールにて新メンバーを加入させたDO OR DOは、リーダーをETSUとし再度活動していくこととなった。

 しかしDODになることは厳しいアイドル活動においてまだスタートラインでしかない。

 第一期メンバーのように一瞬でこの業界から消えていくことも、視野に入れなくてはならない。

 だから、そうならないためにも、

 ずっと夢見ていたアイドルを続けるためにも、

 "私達はやるしかない"。

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