第四章 DO OR DO

第30話 最終選考

 あっという間に思えたが、長かった合宿生活ももう終わりを迎えることとなる。


【合宿十三日目】


 DOD第二期生オーディション合宿、最終日の前日。


 本日に審査をして、翌日に合格発表という形式を取った。

 最終審査を実施する為、ホールに集まった候補生一同。

 鮫山さめやまが仁王立ちで正面に立つ。


「えー、お疲れ様。今日は最終審査だ。この最終審査を乗り越えた者が正真正銘、DO OR DOの第二期生となる。ここが候補生としての最後の踏ん張りどころだ。もちろん、DODに加入してからはもっとしんどいことがたくさん待っている。

 聞く必要もないと思うが、降りる奴がいるなら今のうちだぞ」


 無論誰もそんな選択はしない。

 DODに入るためにこのオーディションに参加し、全てを賭けて頑張ってきた。


「よしじゃあ始めるぞ。まずは…菊月律伽きくづきりっか本明雨ほんみょうあめ


「「よろしくお願いします!」」


 こうして最終選考が始まった。






 全てはDODになる為。


 自分の出来る精一杯のパフォーマンスを全力で披露する候補生達。

 自分が一番相応しいのだと、審査員とライブ中継を閲覧しているリスナーにアピールをした。

 同じ部屋で一週間過ごしてきた仲間を、敵を、越えなければならない。

 1vs1で負けられない死闘を繰り広げ、それぞれ5グループで残ったのは…。






「みんなお疲れ様」


 全員のパフォーマンス審査が終了し、鮫山が拍手を送る。

 候補生達は全員それぞれ出し切った。

 あとは、結果を待つのみだ。


「視聴者票も集めるから結果発表は明日だ。今日はゆっくり休め。合宿初日みたいに飯も豪華だぞ」


 喜ぼうにも、こんな精神状態で食事が喉を通るだろうか怪しいところではある。



 審査を終え、審査員はホールの外へ消えて行った。

 候補生達はホールにて口々に感想を言い合っていた。

 開口一番大きなため息を漏らす八ツ波やつなみ


「はぁ〜…終わった…」


 それに百百塚ももづかが茶々を入れる。


「んー?希野きのっち脱落?」

「違う!私が負けるわけないでしょ!"合宿終わったね"の"終わった"よ!」

「わかってるわかってる!でも誰が合格してるかはわかんないよ〜?」

「私があんなのに負けるわけないでしょ」


 八ツ波の対戦相手だった鎗目やりのめがムッと睨みを効かせる。


「なんだとガキ…私の勝ち」

「そうかしら〜鎗目ちゃん途中バテバテだったけどあれで勝てるのかちら〜」


 鎗目はいつものように反発したと思ったら今度はしおらしくなる。


「……」

「え、な、何よ」

「…多分、負けた」

「えっ」


 あろうことか涙を流しながら八ツ波を讃える。


「八ツ波。アンタはすごかった…多分DODになるのは八ツ波だ」

「ちょっ⁉︎な、泣くなって…悪かったよ…そんなつもりで言ったんじゃ…」


 他の場所でも負けを確信する候補生がいた。

 袖山そでやまだ。


「…ううぅ…私も…っ…きっとダメだっ…ずずっ…うう…」


 対戦相手の俵田たわらだはそれを慰める。


「対戦相手がこんなこと言うものじゃないかもしれないけど、朝妃あさひちゃんは頑張ったわ。そして何よりまだ結果はわからない。諦めちゃダメよ」

「だってダメだよぉ…緊張して声は裏返るしダンスは忘れちゃうしダメダメだったもん…せっかくここまで、残れたのに…悔しいよ…っ」

「……」


 真喜屋まきやも袖山の様子を見て言葉を投げかける。


あさちゃん」

兎架うかちゃん…」

「落ちたら悔しいなぁ。ウチも、DOD入りたい」


 真喜屋は袖山をぎゅっと胸に抱いた。

 するとそこにETSUエツが現れる。


「みんな」


 そして号令をかけた。

 珍しいETSUからの呼びかけに候補生が全員反応する。


「この合宿に参加してくれてありがとう。DODに入りたい、入って頑張りたいって気持ち、伝わった。この中の誰かが、もしかしたら僕も、落ちるかもしれない。でも、僕はこの合宿が出来て、良かったと思う」

悦叶えっかさん…」

「もしこの合宿が終わって会えなくなっても、みんながアイドルになることを諦めないなら、またどこかで繋がると思う。僕には、アイドルになるしか道はないから」


 理由を知っている高戸たかと、袖山、俵田はその言葉の意味を噛み締めた。


「それにみんな感じてると思うけど、この合宿で得たものは大きい。確実に無駄にはならない。だから…何があっても受け止めよう」


 ETSUの言葉に反発するものはいなかった。

 菊月がその言葉に乗っかる。


「そうだよ!私達頑張った!合格しても、脱落しても、明るくいよう?DODの合宿で最終選考まで残ったことを誇りにしよう?」


 高戸も同意する。


「そうだね。こんなの滅多にない経験だ。私たちのアイドル人生に確実に生きる。これでダメなら第三期、第四期も挑戦すればいい」


 高戸の強すぎるメンタルに菊月は笑う。


「流石にそこまでいっても受からなかったらメンタルやられちゃいそ〜」

「気持ちの話さ。これからも頑張るぞっていう」

「ま、今しおしおしてても仕方ないし、今日はご馳走らしいし!切り替えていこー!」


 審査終了後の重い空気から、全員が活気を取り戻した。

 誰かが脱落してしまう。それでも、この過ごしてきた二週間は無駄にはならないと自分達に言い聞かせて。

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