第27話 🤍白部屋 -後-
晩飯の時間になるも姿を現さない
白部屋にノックをする。
「ETSU、いるか?」
「なんですか」
返事が聞こえたことを確認し、扉を開ける。
「泣いてんのか。珍しいな」
「ないてないです」
「どうしたんだ。また喧嘩したか?」
「…いえ」
「飯だけでも食っとけよ。明日もまだまだ練習続きだぞ」
「いらないです」
「お前がちゃんとやってくれないと俺が困るんだ。命令だ、飯を食え」
「……」
ETSUは俯いたまま顔を上げようとしない。
「脅す気はないが、お前がアイドルをやり続けると言うなら俺の言うことには従え。仕事をナメるな」
「………はい」
アイドルを続けるため、という謳い文句にはどうしても耳を傾けてしまう。
アイドルを続けるためにはプロデューサーの言うことが絶対なのだ。
食堂に顔を出すETSU。
「あっ…悦叶さん」
泣き止んだ袖山の涙腺がまた崩壊し、滝のような涙を流す。
「う"ぅっ…!えつ、ごめんなさい!私…」
「いい。別にみんなが悪いわけじゃない」
ETSUも落ち着いたようで、優しく対応した。
「悦叶さん。この後も練習付き合ってくれるかい?」
「私達からもお願いするわ」
「うん。いいよ」
離れた場所では茶部屋の
練習ホールにいた2人はETSUがどうして落ち込んでしまったのか経緯を知っていた。
「ETSU戻ってきたねー」
「アイツらが悦叶様の逆鱗に触れたんだ。彼女はそれを許している。なんて寛大なんだろう…素敵」
「でもETSUも何で怒ったんだろね?」
「当たり前でしょ⁉︎ETSUにあんなこと聞くなんて失礼にも程がある!」
「あんなことって、"なんでアイドルになったの"って聞いてただけじゃん」
「それが無神経だって言ってるの!」
「だからどうしてさ」
「…ふっ、勉強が足りない」
「ETSUマウント取ってくんな」
「悦叶様のことで知らないことはない。理由、聞きたい?」
ドヤ顔でマウントを取って来る鎗目だったが、八ツ波は聞かないことを選択した。
「…いや、いいやぁ」
「えっ、なんで⁉︎」
「だってぇ、ETSUは聞かれたくないってコトでしょ?だったら他人から聞くより、本人が話してくれた時に聞いてあげればいいんじゃないの」
「八ツ波。お前悦叶様に喧嘩ふっかけたくせに随分大人しくなったな」
「私はETSUとダンスバトルがしたかったの。ETSUには何の恨みもないよ」
「そういえばお前、第一期生のリアイドールの理由知ってたみたいだけど、本当にETSUのせいなの?」
「なんだ知らないことあるじゃん」
「流石に"全て"はわからない…教えてよ」
「第一期生の
「もっと詳しく聞かせて!」
「じゃあ一万円な」
「…!」
「出すな出すな‼︎」
候補生たちからしたら謎に包まれた
あるいは同じグループに加入することになればその全貌は暴かれるだろうか。
…
ETSUは3人にこうお願いした。
「さっきの、忘れてね」
「え?どうしてですか?」
ETSUは弱音を吐いたことを恥じ、自分に言い聞かせるように言葉を並べた。
「話してしまったのは僕の弱さだけど、同情されるのは嫌なんだ。僕がアイドルを続けることと、ママのことはもはや関係ない。僕は自分がやりたくてアイドルをやるんだ」
俵田は。
「何言ってるのETSUさん。自分の弱いところは隠さなくてもいいの。私はさっきの話を聞いてETSUさんのことを少し知れたような気がして嬉しかったわ。私達のことを信用して話してくれたのでしょうし、何も悲観することはないわ」
袖山は。
「そうだよ!えつのアイドルにかける情熱が伝わって、私も頑張らなきゃ!って思ったよ!」
高戸は。
「悦叶さん。私も2人と同じです。悦叶さんと一緒にDODにはなれないかもしれませんけど、悦叶さんのように胸を張ってアイドルをやってみたいと感じました」
ETSUは3人の言葉を聞いて今まで感じたことのないような不思議な感情が湧き上がる。
嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったい感情に苛まれ、微妙に表情が緩む。
「あっ!えつ笑った!」
「…!笑ってない!」
「あらあら、うふふ」
「部屋に戻る!」
「悦叶さん!練習しないんですか⁉︎」
ETSUは居ても立っても居られなくなってその場を足早に去って行った。
「悦叶さん…良かったです。なんだか合宿中の悦叶さん、楽しくなさそうでしたから」
「厳しい合宿だけれど、私たちも頑張りましょう」
「うん!俄然やる気出てきた!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます