第26話 🤍白部屋 -中-

 準備運動を終えたETSUエツを引き連れ合同練習を開始する。

 白部屋との合同練習はやはり有意義なようで、他部屋のグループから引っ張りだこだ。

 現メンバーのETSUのパフォーマンス技術を目の前で堪能すると、ライブで見るものより、より鮮明にその迫力が増す。

 才能もあるだろうが、ETSUは幼少時からアイドルを目指していたらしく、その努力の賜物であろう。


 俵田たわらだがふと疑問に思ったことを聞く。

 他のメンバーも興味津々なようで捲し立てる。


「ETSUさんはどうしてアイドルになろうと思ったの?」

「私も気になる!」

「教えてくださいよ悦叶えっかさん」

「教えない」


 袖山そでやまが追随すると、ETSUは怒り気味に拒否した。

 

「え〜いいじゃん〜!やっぱりダンスが上手かったからとか?」

「教えないって言ってるじゃん」


 嫌悪感に満ちた表情を見て彼女の気持ちを察し、俵田が慌てて質問を取り下げる。


「ごめんなさいね…私から聞いといて何だけど、もうやめましょう?詮索は良くないわ」


 ETSUはそのままホールを立ち去ってしまった。


「悦叶さんを怒らせちゃったか。もしかしたらこれを聞くのはタブーだったのかな」

「あとでまた謝りましょう。悪いことをしたわ」


 袖山が顔を真っ青にしながら提案した。


「…今すぐ行こう!私のせいで…」

「…!ええ、そうしましょう」


 3人がETSUを追いかける。

 ETSUは白部屋に戻り部屋の隅で体育座りして縮こまっていた。


「悦叶さん」

「ETSUさん、本当にごめんなさい」

「えつ〜ごめん〜…」


 悦叶はちらっとこちらを向くとその表情はとても暗かった。

 俵田がフォローを入れたが、


「無神経だったわ。誰が何をしようと自由よね」


 ETSUが遮った。


「死んだ」

「…え?」


 ETSUの一言に3人は言葉を無くす。

 何から聞いたものかと思ったところでETSUが続けて喋り出す。


「死んだママの夢。アイドルになってほしいって。

 僕のママは僕を産んだ後すぐに死んだ。

 パパとママは話してたらしい。"こんなに可愛い子は他に絶対いない、アイドルになるべきだ。"って。

 だから。…それだけ」

「…悦叶さん」


 3人はETSUの近くに寄り添い、身体に触れる。


「ETSUさん、ありがとう話してくれて」

「ばたし…ごべんださい…ううぅ…」

「悦叶さん、本当にすみませんでした」

「…一人にして」


 島仲悦叶しまなかえっかは過去に母親を亡くしていた。

 その事実を初めて耳にした3人は、居た堪れない気持ちになった。


 "アイドル"がETSUをETSUたらしめるものである。

 『やるしかない』。

 DO OR DOのコンセプトに一番近い人間はETSUなのかもしれない。

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