第三章 相部屋

第19話 💙青部屋 -前-

【合宿六日目】


 それぞれ5つの部屋に分けられた候補生達。

 一週間を共に過ごす仲間であり、敵。

 合宿は中盤に差し掛かり、気の抜けない毎日が繰り返される。

 練習ホールではライブ中継が繋がっており練習風景をネットで全国放送されている。


 今日は青部屋の2人にフォーカスを当ててみる。


 菊月律伽きくづきりっか本明雨ほんみょうあめ



 菊月が目覚め大きなあくびをすると、本明が気持ちよく挨拶をする。


「ふあぁ…」

「律伽さん、おはようございます」

「あ。おはよー」


 本明は何やら机に向かってノートを書いていた。


「何してんの?」

「今日やろうかなと思ってるスケジュールです。律伽さんもよかったらどうですか?」

「どれどれ?………エッ」


 そのノートはかなり簡素に書かれていた。

 しかしその内容に菊月は驚愕した。


「腕立て500回⁉︎」

「え…何かマズかったでしょうか…?」

「腹筋とスクワット…どれもこれも500回、やりすぎじゃないか?」

「普通どれくらいやるものなんですか?」

「知らずに書くな!あのなあ、たくさんやればいいってもんじゃないぞ?」


 本明はまたもオドオドと不安そうな顔をする。


「そうなんですか…どうしましょう」


 だが菊月は嫌な顔ひとつせず、笑顔でこう言った。


「大丈夫!私が組んでやるよ!」

「律伽さん…!ありがとうございます!」



 練習のためホールへと足を運んだ二人。

 朝早かったが、ホールには数名の候補生達の様子も伺えた。


 白部屋の高戸たかとの姿が見え、こちらが声を出すより先に挨拶をしてくれる。


「おはよう。菊月さん、本明さん」

「おはようございます!」

「はよー」


 白部屋となると相方はETSUエツだが、その姿は見えない。


「ETSUさんはいらっしゃらないんですか?」

悦叶えっかさんはまだ寝てるよ。私だけ来たんだ」

「一緒にトレーニングしないんですね?」

「起きなかったから放っておいた」


 ETSUがかなりのパフォーマンス力を持っていることは皆分かっていた。

 この隙に追い抜かそうと本明は提案する。


「この間にETSUさんを追い抜かせますねっ」

「悦叶さんは何もしなくてもすごいからなあ。すごく頑張っても、勝てるかどうか」

「そんなことないですよ。頑張りましょう?」


 菊月は何の気なしに、配慮に欠ける言葉を投げる。


「ETSUがいないDODは想像できないけどな」


 ETSUに勝つことは難しい。だからこそ高戸には頑張ってほしいと本明は言う。


「律伽さん!そんなこと言っちゃいけません!高戸さんは勝ちます!」

「いいんだよ。私も悦叶さんがDODに相応しいと思ってる。だからこそ、頑張って勝ってみたいんだ。

 …っと、喋りすぎちゃったね。私は走り込み行ってくるよ。またね」

「頑張ってください!」


 高戸を見送ると、菊月は不思議そうにしていた。


「アイツ、あのETSUが相手なのに動じてないな」

「そうですね。どっしり構えてる感じがします。…でもあの言い方はひどいです!あとで謝りましょう?」

「悪かったって」



 昼食の時間となり食堂でも二人は話す。

 部屋以外は全て撮影されており、食事風景も放送されている。

 しかし、候補生達もいつまでも気にしているわけにもいかず、環境に慣れるためにも素で活動することにした。


 菊月と本明はずっと一緒に行動し、お互いを知る為色んな話をしていた。


「へえ、雨はDOAのオーディションも参加してたんだ?」

「はい。その時はただの憧れで、入れたらいいなーくらいの軽い気持ちだったんです。でもDODのETSUのパフォーマンスを見たら…そんなものじゃいられなくて。絶対に合格しようって思ったんです…!」

「じゃああの時、良かったね」

「あの時?」


 何の話やら分からなかったが、菊月の一言で鮮明に思い出す。


「ETSUが素手で飯食ったやつ!」

「…!ああ!あれはカッコよかったです…!心が折れかけてたんですけど、神様が頑張れって言ってくれてるみたいでした」

「ETSU様様、だね」

「はい、とても!」


 盛り上がっていると、そこに先程会った高戸が声をかけてきた。

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