第15話 候補生『俵田彩世』

【合宿五日目】


 今のグループでの最後の練習日となる。

 そして発表の日でもある。


「今日は確実に誰がが落ちる。わかってるな?」


 朝一番、鮫山さめやまが言ったのは言葉通りのことだ。

 20名の候補生が残り、ETSUエツを含んだ5つのグループが組まれている。

 ここからグループ内上位2名以外は、脱落する。


「ETSU」

「はい」

「お前も気を抜くなよ。本当に落とすぞ」

「落ちません。落ちるわけには…」

「ああ、そうだな。その気持ちをずっと忘れんなよ」


 それから5グループは課題曲を披露することとなった。

 たくさん頑張ってきた練習の成果を見せた。

 練習時間を多く確保できたおかげか、どのグループも高い完成度での発表が出来た。


 どのグループも、学べたことは少なくない。

 だが、全員が受かることはないのだ。



 あっという間に発表が終わった。

 審議の為一度休憩となり、その間審査員達は頭を悩ませる。


「ふむ。思ったよりいいな」

「そうですね。僕は特に4組目の八ツ波やつなみさんなんかは光って見えますね!」

「1組目の百百塚鈴ももづかすずもいい」


 河岸かわぎしは優柔不断に決め兼ねていたが、他二人は各々答えを出した。


「みんな頑張ってるだけあって顕著な差は生まれてないですね。さてここから選ぶのか…」

「俺はもう決めた」

「ワシもだ」

「ええっ?困ったなあ…決められないや…」



 採点している間、しばらくの空き時間。

 皆そわそわして緊張する空気の中、ETSUは退屈そうにしている。

 するとETSUの元に一人の女性が近寄り、落ち着いた声で話しかけてきた。


「ETSUさん」


 声のする方を見るとそこには。


 俵田たわらだ彩世いろせ

 焦茶のセミロングで、スタイルも良く、大人っぽい雰囲気。おそらく最年長のお姉さん。


「…何」

「ごめんなさい、一度話してみたかったの。私もETSUさんに憧れて応募したから」

「そうなんだ」


 ETSUはつまらない返事しかしなかったが、俵田は気にせず話を広げた。


「ETSUさんが今回の選考に参加するなんて誰も思ってなかったと思うの。あなたと一緒に出来るのは嬉しいけれど、もし、選考に漏れてしまったらどうするの?」

「落ちないよ。僕は」


 俵田はその言葉を聞いて衝撃を受けた。


「まあ…⁉︎ヤラセってことなの…⁉︎」

「いや…そうじゃない…」


 否定すると驚いた表情が戻っていく。


「びっくりしちゃったわ」

「誰にも負けないって意味。ごめんややこしくて」

「いいのよ。ETSUさん、素敵なダンスをするものね」


 ETSUは多くを語らないが、俵田は物憂げな彼女の表情から察する。

 俵田は不思議なことを言い出した。


「なんだか、苦しそうだわ」

「え?」

「ETSUさんは、DODのリーダーだったし、背負っているものはたくさんあると思うわ。でも抱えすぎると息がし辛いと思わない?」

「僕が苦しそう?」

「ええ。そうね…これからの不安…いえ、過去のことかしら。昔の辛かったことを思い出しているような、そんなカオをしてるわ」


 ETSUは昨日の晩も一昨日の晩も、メンバーやプロデューサーに言われたことを思い返していた。

 ただいざ考えるとなると答えが分からなくなり、逃げるように眠っていた。

 そんな彼女の心象を俵田は言い当てていた。


「…君には関係ない」

「あら、図星ね。ETSUさんって意外と分かりやすいわね♪」

「おちょくってるならどこかへ行ってくれ」


 ETSUはムスッとして、話を切るかのようにそっぽを向いてしまうが、俵田はその背丈と大きな胸でETSUを抱擁した。

 初めは動揺したが、しばらく受け入れてしまったのは俵田の母性故だろうか。


 俵田が離れると、そのまま一言。


「ETSUさん、大丈夫よ。DODはきっと良いグループになるわ」


 言い放って去って行った。

 ETSUはイマイチ彼女の言いたいことが分からなかった。


「…何だったの?」

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