第14話 候補生『菊月律伽』
その晩、
「え〜つ〜」
今日散々聞いた
そこには百百塚と、もう一人候補生の姿が。
「ETSU、ちす!」
「…誰だっけ」
「ゲッ、認識されてない…
菊月律伽。
茶髪にショートカットでボーイッシュな風貌。はっきりとした声音は自信に満ちている。
「どこ行くん?」
「走るだけ」
百百塚は面白そうに提案する。
「ウチらも連れてってよ!」
「いい」
「"いい"の?」
「その"いい"じゃない。来なくていい」
菊月も悪ノリでETSUをおちょくる。
「じゃ私着替えてくるわ!」
「ウチも!」
「来るな!」
百百塚と菊月はあっという間に消えた。
…
残されたETSUは待つべきだろうか、行っていいのだろうか迷い、しばらく待ってみる。
すると2人が談笑しながら戻ってきて、驚いた顔で言う。
「「待ってくれてる⁉︎」」
「君達が来るって言ったんじゃないか…」
なんだかんだ3人で一緒に走ることとなった。
走りながらも菊月が問いかける。
「ETSUっていっつも走ってんのー?」
「うん」
「偉いな〜私三日坊主だから続かないわ」
「嫌ならやらなくていい。僕は好きで走ってる」
「でもさ、誰かと走んのは悪くないよな」
「これから毎日来るとかやめてよ」
「これから毎日いいのか?」
「やめろ」
菊月はなんとなくETSUのパーソナルスペースが分かってきたのか、遠慮なしにいじる。
そんなやりとりを見て百百塚が言う。
「ETSUって意外と人間臭いよなぁ」
「どういう意味?」
「もっとロボットみたいなんかと思ってた」
「あ!それわかる〜」
「…意味わかんない」
百百塚と菊月は勝手にキャッキャと盛り上がる。
菊月はまた悪気もなく質問する。
「そいえばさー、なんでDOD3人脱退したの?」
「君もそれを聞いてくるんだ」
「他にも聞かれた?」
「あのクソ生意気なガキ」
二人はその"ガキ"の顔を思い浮かべてみる。
菊月が思い出したようだ。
「…ああ、
「…知ってて?」
「あの子一期生の
「…あのガキ」
「ETSUとダンス勝負したくてわざと喧嘩ふっかけたのかもね〜」
「もうどうでもいいよ」
「しかし…新たなメンバーの選考、挑む私たちも楽じゃないけど、プロデューサーさんもETSUも大変そうだ」
「別に、こうやって候補生も来てるし、いいんじゃない?」
他愛のない会話をしていたが、百百塚が爆弾を投下した。
「でもそれはDOAの人気があったからだ。このままDODが不甲斐ないグループに成り下がったら誰も来ないよ」
百百塚の嫌味っぽい発言に、ETSUが走るのをやめて立ち止まる。
「僕のせいでそうなってるって?」
「なんだ、自覚あるなら直したら?」
「失礼だな。なんでそんなことわかるんだ」
「今日一緒にやったんだからわかるよ。あんなパフォーマンスじゃ人はついてこない。さしずめ3人を置いてけぼりにしたんだろう」
険悪なムードに菊月は焦って止めにかかる。
「ちょっ…おいおい、喧嘩しないでよ…ってETSU!急に走るなよ!」
再び走り出すETSUを後から追いかけ、百百塚は話の続きをした。
「だから今日学べたんじゃないか。グループにはみんなで協力するあのノリが必要なんだ。楽しかっただろ?」
「…僕は」
ETSUがボソッと呟く。
「僕は、本当に間違ってるんだろうか。自分のすることが間違いないと思って生きてきた。でもみんなはそう思ってくれていない。どうしてかわからない」
「「…ETSU」」
しんみりとした空気が流れた。
…のは気のせいだったようだ。
二人はそんなETSUを見てベタベタと触り出す。
「なんだ可愛いとこあるじゃーん!」
「ETSUお前めっちゃ可愛いな!」
「うざい!寄るな!」
そうこうしている間に宿に戻ってきていた。
…
明日の練習に備えて候補生たちは眠りについた頃。
ETSUは部屋で一人、昼間八ツ波に言われたことを思い出す。
DODの3人が脱退したのは自分のせいだ、と。
「じゃあどうすれば良かったんだ」
昔を思い返す。
「何を言われたっけ」
『お前がもっと団体行動を遵守してたらこんなことになってねえんだよ!』
CUWに。
『グループだし、みんなでお互いのことを考える必要もあったんじゃないかな』
『でもなETSU、DODはグループなんだ。独りよがりだと上手くいくもんも上手くいかんぞ』
百百塚に。
『あんなパフォーマンスじゃ人はついてこない。さしずめ3人を置いてけぼりにしたんだろう』
「…寝よ」
考えたくなくなって、考えるのをやめた。
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