第10話 候補生『袖山朝妃』
グループでの実技演習が始まったが、
それもその筈、やる意味がないと本気で思っているのだ。
候補生達がホールで練習する中、体育座りをしてあくびをするETSUに、一人の候補生が駆け寄った。
「ねぇねぇETSU!一緒にやらないの?」
明るい茶髪に八重歯がトレードマーク。
持ち前の行動力は天真爛漫という言葉がよく似合う。
誰も声をかけなかったが、袖山が初めて声をかけたのだった。
「やらない」
「みんなETSUと練習したがってるよ?やろ?」
「やらない」
話をするのも面倒になったのか、立ち上がりホールから出て行く。
そしてそれを全力で追いかける袖山。
「えつ〜!待って〜♪」
その突飛な光景に候補生達は、関心か何か、そんな視線を彼女に送った。
何度か彼女達がホールに戻って来ることはあったが、ETSUは頑なに練習に参加することはなかった。
…
して、約6時間の練習の末、ついに実技試験の発表が始まった。
審査員は3人。プロデューサー
河岸はETSUが実技審査をやることに疑問を感じていた。
「鮫山さん。ETSUの審査なんてやってどうするんですか?」
「他の候補生と変わらん。出来なきゃ落とす」
「本気で言ってるんですか?ETSUがいないと困るのは我々では…」
「アイツには協調性が足りていないと思っていたところだ。グループでやらせた方がアイツの為になりそうだ」
「はあ」
合宿の期間は二週間。
徐々に徐々に候補生を減らしていき最終的には数人程度の候補生を第二期生として迎え入れるつもりだった。
しかしETSUの介入により先がまた見えなくなった。
…
全てのチームが発表を終えた。
ETSUもなんだかんだで本番の一回だけは実技試験を受けてくれたようだ。
同じ班だった候補生達は一緒に踊れて嬉しそうに、違う班だった候補生達は悔しそうにしていた。
「まずはお疲れ様。今回の発表は顔合わせみたいなもんだ。脱落者はいない」
ほっと胸を撫で下ろす候補生達。
「チームは馴れ合いじゃない。互いが互いを高め合うことだ。だが高め合う中でも、そのチームの誰にも負けないという気持ちが必要不可欠だ。お前らの組んでるそれはチームであってチームじゃない。仲間を蹴落とせ。自分が一番だと証明して見せろ」
一人候補生が口を挟む。
「具体的にはどうしたら」
「そうだな………」
鮫山は今この場で、どういう審査方法にするか考えていた。
「よし、こうしよう。チームはそのまま継続だ。再度実技審査を行い、上位2名を継続させる。それ以下の奴は帰宅処分。続けたいなら仲間よりも強くあれ」
厳しい審査ではあったがここまできたらもう引き返せない。
候補生達は覚悟を決め、グループ内でのトップ争いに勝とうと気を引き締めた。
「今回の審査がかなり重要になってくる。練習期間は今日含め三日取ろう。昼飯と晩飯風呂に就寝、それ以外は自由時間だ。有効的に使え」
それだけ言い残し、審査員の3人がホールを後にした。
残された候補生達は絶対に負けられない戦いを強いられる。
そんな熱い想いが今にも練習の熱を上げてくれるものと思ったが、水を差す女がいた。
先程もETSUに付き纏っていた袖山だ。
「ETSU〜同じチームでやりたかった」
「それ、負けるだけだよ」
「そうとは限らないじゃん!私とETSUのツートップかも〜」
「ないでしょ」
袖山が一方的に声をかけていたが、いつの間にやら会話をするようになっていた。
ヒソヒソと「ETSUが喋ってる」「すごい」なんて会話も繰り広げられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます