第二章 オーディション合宿

第7話 候補生合宿、一日目

 プロデューサー鮫山さめやまETSUエツが事務所に集まる。

 本来なら4人でライブをする筈だったこの一ヶ月間をどう過ごすか会議することにした。


「ETSU、すまなかったな」

「どうしてプロデューサーが謝るんですか?」

「俺が選んだメンバーだった。苦労させるつもりはなかったんだけどな」

「いいんです。やってみないとわからないこともありますから」

「ETSUは楽しかったか?4人で出来て」

「僕は楽しかったですよ」

「最後、また喧嘩したんだってな」


 先日のライブが終わり、お互いがお互いの思っていることを言い合った。

 嫉妬や怒り、苛立ちから心ない貶し、誰も得しない悲しい空間の中でETSU以外のメンバーは即脱退を決めた。


「お前も言い過ぎたんじゃないのか?」

「もう子供じゃないんです。あの人達は仕事をナメてます」

「でもなETSU。DODはグループなんだ。独りよがりだと上手くいくもんも上手くいかんぞ」

「そんなこと言ったって…僕はどうしたら…」

「…まあ、決まったことは仕方ない。お前は引き続き、俺のママゴトに付き合ってくれ」


 ETSUは軽く聞き流すと、ところでといった感じで話を切り替えた。


「僕、オーディションの選考やってもいいですか?」

「はあ?どこまで手を出す気なんだお前は」

「だって僕が一緒にやるメンバーですよ?いいじゃないですか」

「前代未聞だな。DOAの時もそんなこと言うやついなかったぞ」

「ダメですか?」

「いや、考えとく。そん時はまたお願いする」

「はい」


 ETSUが事務所を出ていくと鮫山は独り言を呟く。


「…まあ、リアイドールの狙いはそこだからな。全員が完成した"絶対人間集団"を作る。DOAの時は苦労したなあ」


 PCの画面を操作し、応募された第二期生のオーディションのエントリーシートを確認する。


「ETSUが自分に足りないものに気付いてくれるかどうか…」


 煙草を蒸しながらPC画面を見つめる。


「しかし他メンバーも残念だったな…やっぱりETSUみたいな奴がいるとみんな自信消失しちまうんだなぁ。どうすっか」


 鮫山は頭を掻き、再びPCに向かった。





 それから書類選考で40名もの候補生が選び抜かれた。

 二週間の合宿形式でオーディションが開催される。


 書類選考を合格し、規定のキャンプ地に集められた40名は過酷な審査に挑むこととなる。



【合宿一日目】



「「「よろしくお願いします!」」」


 集められた候補生達は元気よく挨拶をする。

 そこにはプロデューサー鮫山と、松江まつえという初老の男もいた。

 

「よろしくな、未来のDOD。プロデューサーの鮫山だ。えー今日だが、初顔合わせってことで、親睦でも深めるか」


 地獄の合宿が始まると思いきや、和やかな雰囲気で始まる。

 先代DOAの合宿風景は放送されたこともあり、DVDにもなった。

 内容はかなりかなりキツく、何人もの候補生が根を上げてリタイヤした事が印象強い。

 そんな合宿が始まると思っていただけに、拍子抜けだ。


「学校じゃねえけど、一人一人自己紹介でもしてくか。実技試験で同じグループになる可能性もあるから全員顔見知りになった方がやりやすいぞ」


 マネージャー河岸かわぎしがとあるものを持って現れる。


「鮫山さん。全員のネームプレート持ってきましたよ」

「ご苦労。さ、自己紹介始めるぞ」


 こうして40名の候補生達は自己紹介をし、真剣ながらも楽しく合宿へ臨むのだった。



 その晩も豪勢な料理がテーブルに並び、やはりとても厳しい合宿が始まるとはおおよそ思えなかった。


 候補生達はこの気楽な空間に、思い思いに喋る。


「ねえ聞いた?ETSUも合宿来てるらしいよ?」

「えっ⁉︎本当⁉︎会いたい!」

「審査員やるのかな?」

「こんな楽しくて、しかもETSUにも会えるなんて、来て良かった〜!」


 大半の候補生はウキウキと胸を躍らせていたが、心構えをしている候補生達もいた。


「多分今日だけだよねー、これ」

「そうですね。明日からはきっと厳しい合宿が始まります」

「そうじゃないと困る。私は遊びに来たんじゃない!」

「私もそう」

「早めに寝て体力残しとこ」


 一体何人がこの合宿について行くことができるのか。

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