第6話 衝突する想い

 ETSUエツは尻もちをついた状態のままKOHコーを睨みつける。

 

「…何すんだよ」

「お前がもっと団体行動を遵守じゅんしゅしてたらこんなことになってねえんだよ!」


 今にも殴りかかりそうだった彼女を、AYEアイCUWクウが必死に止める。


「やめようKOHちゃん!ETSUちゃんに怒っても仕方ないよ!」

「そうだよ!」

「お前なんか…っ!お前なんかアイドルやる資格ねえよ!とっととお前もクビになればいいんだ!」


 KOHは怒りから悲しみへと切り替わり、次第に力が抜けていきその場で泣き崩れた。

 ETSUはゆっくり立ち上がり、服についた汚れをはらう。


「CUW、AYE。あなた達も、KOHと同じ気持ちなの?」


 AYEはキッパリと答えた。


「少し違うよ。私は、ETSUちゃんが凄すぎて負い目を感じていたの。でも言えるのは、ETSUちゃんのせいじゃなくて、頑張れなくなった自分のせいってこと…。ごめんね、4人でDOD、もう出来ないね」

「そう…」

「でもね、KOHちゃんの言ったことも本当。私達は一度折れたけどそこから立ち上がった。だからDODを盛り上げようとしたのは、確かだよ。それだけは信じてほしいな」


 AYEが真剣な眼差しでETSUに訴えかける。

 納得したように目を閉じ、次は視線をCUWに移す。


「CUWも?」

「……」

「ハッキリ言ってよ」


 CUWは争うようなことはしたくなかった。

 しかしETSUの圧力に屈し、弱々しく口を開く。


「私は…KOHの話とか聞いてて…辛そうなの知ってて、グループでやり続けるのは大変だなって思って…」

「彼女に同情したの?」

「……」

「そんな半端な気持ちで続けられるほど甘くないよ。グループの為にも勿論そうだけど、本当に一番に考えるのは自分の為に。じゃないと強くなれないよ」


 ETSUの考えを聞いていたが、彼女には彼女の美学があった。

 自分の思った事を、恐る恐る伝える。


「…本当にそうなのかな。グループだし、みんなでお互いのことを考える必要もあったんじゃないかな」

「僕が妥協してみんなに合わせるのが必要なこと?」

「…っ、そ、そういう意味じゃない、けど…」

「みんな僕が人でなしに見えるみたいだけど、僕からしたら私情でパフォーマンスの質を下げてるみんなの方がひどいと思うよ」


 黙って聞いていたAYEも強気に口を挟む。


「ETSUちゃん、そんな言い方しなくてもよくない?」

「じゃあどうして僕のパフォーマンスを見て頑張れなくなるのさ。

 悔しいなら僕をあっと驚かせてみてよ。僕が嫌になるくらいすごいパフォーマンスしたらいいじゃないか。

 悔しさをバネに猛練習したらよかったじゃないか。それもしないなんて逃げだよ。僕何か間違ってるかな?」

「ETSUちゃん、それは絶対違う!」

「何が違うのか説明してよ」

「みんな頑張ってるのに自分しか見ようとしてないのは、それこそ逃げだよ!」

「…意味わかんない」


 言い合っているうちにETSU以外のメンバーは涙が止まらなくなっていた。

 すすり泣く声だけがしばらく楽屋に響く。


 ETSUはその光景をしばらく眺め、小さく息を吐いた。


「…そう。わかった。でも、僕は謝らないよ。僕は自分の精一杯をずっとずっとDODにぶつけた。それだけなんだから」


 3人を楽屋に置いて去って行く。


 あと一ヶ月続くはずだったDODのライブはCUW、AYE、KOH、3人の本人都合による即脱退で急遽中止となった。



 その日の晩。

 ETSUは鮫山が用意してくれた借家へと戻ってきた。


 そのまま暗い部屋の中、悩みふける。


「僕だって頑張ってるのに…」


 KOHの心ない言葉を思い出す。

 きっと彼女もいっぱいいっぱいで、口を突いて出た言葉だという事も、薄々気付いてはいた。


「アイドルやる資格がない、か」


 小さな本棚の上に置いてある写真立てを手に取り、眺める。

 ETSUの目が薄らと潤っていき、目の辺りが熱くなる。


「僕にはアイドルしか、ない、よね」

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