第4話 スター

 あれから数週間経ち、その月だけでも五回とハイペースでライブを行い益々人気に拍車がかかってきたDODだった。


 がしかし、ライブ本番の直前に、ETSUエツ以外の3人が陰でこんな話をしていた。

 KOHコーが相変わらず不満そうな顔で言う。


「…なあAYEアイCUWクウ

「なあに?KOHちゃん」

「あたし、このグループ好きだよ」

「どうしたの?急に」

「あたしは自信があったんだ。このグループを高みへ連れて行けるってさ。でも…」

「「でも?」」


 少し言うのを躊躇っていたように見えたが、覚悟を決めたように今の心境を口に出す。


「あたしはETSUとはやっていけない」

「「……」」


 KOHは鮫山さめやまの言った通り、今のグループに満足出来ずにいたのだ。


「お前らも思わないか?アイツは自己中だ。グループに置いて欠陥がある」


 そう言われ、AYEとCUWは考える。

 思うところはあったが、なんと言えばいいやら。

 CUWが言葉を選びながら意見する。


「それは………でも、ETSUのパフォーマンスは本当に質が高くて誰よりも輝いてる。彼女なくしてDODは成功しないとまで言われてる」


 しかしKOHは確信に近いものを感じ、CUWの意見に反発する。


「いいや。アイツがDODを壊してる」

「…そう、なのかな」


 そんな二人をよそに、AYEは目を閉じて上を見上げる。


「でもなんかわかるなあ。ETSUちゃんって超人、って感じだよね!なんていうか…追い…追いつけない…」


 急にAYEの表情が崩れ、大粒の涙を流しCUWは心配する。


「…あ、AYE?」

「っ…悔しいよ!あんなに華があって、カッコよくて!私もあんな風になりたい!なれると思って頑張ってるのに!隣で一緒に歌ってるの………辛い…っ…」

「「……」」


 KOHはETSUと価値観が合わずに不満を溜めていた。

 AYEはETSUの質の高いパフォーマンスを横目に負い目を感じていた。

 そんな二人の劣情を聞いたCUWは優しさからか、これからライブだというのに身が入らずにいた。


 そこに間が悪くETSUが現れる。


「お待たせ。頑張ろうね。………AYE?」


 AYEが涙を流しているのを見てETSUは気にかける。


「どうしたの?」

「大丈夫っ…平気だよ!ライブ、頑張ろうね!」

「「……」」


 そういったメンバーの気持ちがパフォーマンスに表れてしまっているのは誰が見ても明らかだった。

 ライブは終了したが、あまりに酷いライブをするETSU以外の3人を見兼ねて鮫山が呼び出した。



「…ETSUは?」


 KOHは目を合わせずに適当に答えた。


「…またどっか行きました」

「そうか、丁度いい。

 お前ら、最近どうしたんだ。調子悪そうじゃないか」


 誰も何も言えずにいると鮫山は怒号を上げる。


「お遊戯会じゃねえんだぞ‼︎」


 3人がビクッと体を震わせ、すくみ上がる。


「何か言ってみろ。ああ?お前らがなりたかったアイドルだぞ。お前らがオーディションに応募してきてやっと叶った場所だぞ。どうしてあんなパフォーマンスが披露できるんだ?

 特に身が入ってないのはKOHお前だ。何考えて歌ってんだ?あ?」

「…すみません」

「謝罪じゃなくて何考えてたかって聞いてんだよ。もういいお前は。AYE、お前もなんか考えてただろ、言ってみろ」

「………ETSUちゃんのことです」

「おー、言ってみろ」

「ETSUちゃんがすごくて、私も追い付かなきゃって焦って、いつものパフォーマンスが出来ませんでした」

「……」


 しばらく沈黙が走り、鮫山が口を開く。


「いいか?お前らはオーディションで他の候補生達を見てきただろ?出来なくて、悔しくて、悲しくて泣いてた奴がたくさんいただろ?それほどまでにやりたかった奴らもいた。でもお前らが選ばれた。このグループに入るってのは本当にすごいことなんだ。だから自信を持て」


 突然の諭しに3人は目を丸くする。

 何も彼女達を責め立てたいわけではないのだ。


「ETSUみたいな奴がDOAにもいたんだ。才能の塊みたいな奴がな。今のお前らと同じ気持ちを持った奴はリアイドールで消えてった。むしろそれがあったからリアイドールの制度が出来上がったんだ」


 リアイドールが生まれた歴史を聞いて、KOHは目を丸くする。


「え…そう、だったんですか?」

「そう。だからそいつを越える存在が現れることを待ち侘びて、新メンバーをチャレンジャーに見立てて、繰り返されてたんだ。そんでDOAはやっと、ツートップが誕生したんだ」


 その言葉を聞いて二人の顔が浮かぶ。

 DOAでセンターを飾っていた二人。

 元々DOAのファンだったAYEはその名を口にする。


「それがRURUルルMIWミウ…」

「アイツを、ETSUを越えようって気持ちじゃないとやっていけないぞ」


 そこにマネージャー河岸がやってきて鮫山を呼びつけた。


「鮫山さん。松江まつえさんが来てほしいと」

「すぐ行く」


 鮫山は一度席を離すと、3人は顔を見合わせて決意を固める。

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