第3話 完璧主義者

 二週間後。

 またもDODのライブが開催されたが、ETSUエツはいつもと変わらない出来栄えに不満を持つ。


KOHコー!いい加減にして」

「あ?いいじゃんかよ、盛り上がってんだしさー。完璧を求め過ぎなんだよお前は」

「足を引っ張らないでって言ってる。君のパフォーマンスからは熱量が感じられない。クールを気取ってるだけならやめて」

「なんだよその言い方。あたしだって真面目にやってんだぜ?」


 そこに鮫山さめやまが現れ、二人の険悪な雰囲気に理由を問う。


「どうしたお前ら」


 KOHはいつものように軽い口調で文句を垂れた。


「なんかETSUがうるさいんすよー。真面目にやってんのに真面目にやれって」


 ETSUはその態度にまたムッとして語気を荒げて反発する。


「どこが真面目なの?ライブ映像見返したら?あんなダラダラダラダラ踊って、僕の動きに合わせてよ」

「あー出た出た。僕に合わせろ僕に合わせろって毎回毎回うるせえなー。DODはお前中心で回ってるわけじゃないんだよ」

「僕がリーダーだ。僕に合わせられないならやめてくれ。これ以上DODの看板に泥を塗らないで」


 二人の話は平行線であると感じ、鮫山が止めに入る。


「はいはい。そこまでだ。

 ETSU、お前はリーダーだがそれ以前にDODは俺の会社の1グループだ。自分がリーダーであることをKOHに押し付けるな。

 KOH、ETSUは口は悪いが言っていることは一理あると思っている。このまま輪を乱すパフォーマンスをするならリアイドールも考える」


 その言葉に流石のETSUも踏み留まり、悔しそうに返事をする。

 それに反してKOHは軽く返事をする。


「…はい」

「はーい」

「まだ結成して日の浅いグループだ。喧嘩するのも無理ないがお前らは俺の商売道具だ。お前らが働けないと言うならクビにするまでだ。そこはわかってるな?」

「「……」」


 二人ともプロデューサーの言うことには納得せざるを得なかった。

 彼に働かせてもらっているのだと改めて自覚する。

 

「今日はお疲れ。明日はしっかり体休めて、明後日は根沙ねさのスタジオでMOMOモモ TRAINトレインと合同練習だから気合い入れろよ」


 ただまだ何か言い足りない様子でETSUが鮫山に呼びかける。


「プロデューサー」

「なんだ」

「後で、お時間をいただいても」


 KOHが嫌味っぽく彼女に言う。


「裏であたしの陰口か?」

「っ…」


 また喧嘩を始めようとする二人。

 鮫山はキリがないなとまた小さくため息をついた。


「はぁ。だからやめろと言ってるだろ。

 ETSU、あとで事務所に来い」

「はい」



 ロッカールームでは4人が着替えていたが、会話は一つもなかった。

 空気はいつからか最悪になっていた。


 着替えを終えると、4人は義務的に挨拶だけしてその場は解散し、ETSUは鮫山の元に向かう。



 事務所に到着したETSUは、無表情ながらもどこか真剣な顔で鮫山に訴えかける。

 

「…KOHとはなんとかやります。だから、DODを続けさせてください」


 彼女の目がまっすぐと鮫山を見る。

 鮫山は口に咥えた煙草を口から離す。


「お前がそれでならな。誤魔化しはいつか効かなくなるぞ」

「それでも…続けたいです」


 もう一度煙草の煙を吸い込み、鼻から吹き出す。

 何か思い出していたのか、一呼吸置いた後に喋り出す。

 

「お前がアイドルを目指した理由を俺は知っているが、それで肩入れする気はないからな。お前をDODに入れたのはパフォーマンスが優れているからだ。それにリーダーになれたからといって天狗になるなよ。お前が他人と劣っている部分はたくさんある」

「…はい」

「続けたい、と言ったな。それはお前次第なんだ。来月末のライブでリアイドールメンバーを発表する。何をしたらそこで呼ばれないようになるか、自分で考えろ」

「はい、ありがとうございました」


 ETSUが部屋を出て行くと、鮫山は頭を抱えた。


「…とはいえ見捨てることも出来ねえよなあ。おじさんにあの手の話は効くのよ」


 ETSUの過去に何があったのか、鮫山は知っているようだったがその真相とは如何に。

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