第2話 DOAの後釜

 3人が楽屋に戻ると既に鮫山さめやまが座って待機していた。

 いつもしかめっ面だが、いつにも増して怖い顔をしていた。


ETSUエツは?」

「さあ、どこかへ消えました。アイツの奇行は誰にも読めません」

「まあいい。CUWクウAYEアイKOHコー、そこに座って」


 鮫山の真面目な声のトーンに、楽屋内は緊張感が走る。


「まずはお疲れ様」

「「「ありがとうございます」」」

「で、どうだった?AYE」

「はい!私は、すっごい楽しかったです♪やっぱりアイドルしてる時の私が一番輝いてるなって思います♪」

「CUW」

「私も、DOAの想いを背負ったままこのステージに立つことが出来てとても光栄です!今日のことは忘れられません」

「KOH」

「あたしはいつも通り全力でやるだけです」


 全員の意見を軽く聞き終えた後、鮫山が恐ろしいことを口にする。


「誰を脱退させるか決まった」

「「「!」」」


 鮫山が言っているのはリアイドールのことだ。

 DODのパフォーマンスを下げるようなメンバーがいれば、入れ替えを行うと脅していた。


 鮫山が3人が絶句しているのを確認し、急に小さく笑い出す。


「冗談だ」


 3人はホッとする。

 そこにリーダーのETSUがコンビニで買ってきたであろう菓子パンを頬張って帰ってきた。

 マネージャー河岸かわぎしは安心したのか柔らかい笑顔で彼女を迎えた。


「ETSU!どこ行ってたんだ」

「ほふはえはほははへっへ」

「なんて?」


 鮫山が冗談とは思えないトーンで言い放った。


「誰を脱退させるか決まった」


 AYEとCUWは「あはは…」と苦笑いを浮かべるも、ETSUは気にも留めずに鮫山の前の席に座る。

 食べるのをやめないETSUにKOHが痺れを切らし口を出そうとしたが、鮫山が立ち上がりETSUの頭をバシッと叩く。


「食べるのをやめろ」

「いたっ」


 KOHはざまあみろと言わんばかりにシシシと笑う。

 鮫山は再度座り直し続ける。


「今のは冗談だが、二ヶ月後にはそれが本当になる」


 リアイドールを発表されることはすなわち余命宣告みたいなものだ。

 ファンが何と言おうと例外なく、確実に脱退を余儀なくされ、せっかく加入したメンバーも一瞬でこの界隈を追い出されるのだ。

 そのストイックさもあり、現メンバーは手を抜かず完成度の高いパフォーマンスが維持されているのだ。


「…というのはみんなわかってるはずだ。DOAを知っているなら尚更な。俺が不必要と感じたら抜く。感じなければ抜かない。それだけだ。それを胸に、今後も頑張れ」

「「「はい!ありがとうございます!」」」

「俺はETSUと話がある。3人は席を外して」

「「「はい。失礼しました」」」


 早々に部屋を出ていく3人。


「ETSU、お前はどうだ?」


 ETSUはごくんと口の中のものを飲み込む。


「僕は、頑張りました」

「そうか。他のメンバーとはどうだ?」

「…わかりません。ただ僕には遊んでいるように見えます」

「ほう。どういうことだ?」


 ETSUは機械のように淡々とメンバーを評価する。


「ライブパフォーマンスとしては50点以下です。しかもそれで満足している。

 CUWは覚えが悪い、AYEは媚びすぎ、KOHはやる気なし、本当にDOAを見てアイドルを志したのか疑わしいほどの完成度です」


 あまりの酷評に河岸は絶句するが、鮫山は表情一つ変えずに会話を続けた。


「言ったのか?本人たちには」

「もちろんです。KOHには茶化されましたが。

 プロデューサーには悪いですけど、彼女達をお守りする気はないです。僕は僕で、全力で、パフォーマンスをします」


 言いたいことを伝え切ったのか、河岸の制止も効かず立ち去った。


「あ、え、ETSU!」


 鮫山は小さくため息をついて喋り出す。


「ふん…どっちを取るかな」

「え?何がですか?」

「初ライブに満足していないのはETSUだけだ。正直俺も同じ気持ちだった。他の3人が遊んでるとは思ってないが、一緒にパフォーマンスをしたETSUがああ感じているのは良くないことだ」

「はぁ」

「だがそのETSUには団体行動ができていない。一長一短だ。DODを今より良くするにはどっちを入れ替えるのが賢明か」

「難しい問題ですね〜」

「ETSUは確かにすごいが、このままだと他メンバーの不満が溜まっていくことだろう。それも解散の危機になるくらいの」

「そこまでいきますかね?」

「まあ様子見してみよう。きっと誰がが根を上げる」


 河岸は大袈裟に感じていたが、鮫山は本気でそう思っているようだ。

 初ライブの成功は本来であれば喜ばしい事だが、鮫山の表情からはその喜びを微塵も感じられなかった。

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