第一章 DOD第一期生

第1話 -DO OR DO- 私達はやるしかない

「……」


 楽屋でプロデューサー鮫山さめやまが何やら神妙な表情をしていた。

 するとそこに、マネージャーの河岸かわぎしが満面の笑みで楽屋へと入り込む。

 DODのライブの出来に満足しているのか上機嫌だ。


「鮫山さん、無事終わりましたね!DODのお披露目ライブ!かなり前からみんな練習してただけあって、大成功ですね!」

「本気で言ってんのか河岸」

「えっ?」

「DOAの衝撃はこんなものじゃなかったはずだ」


 河岸も前グループDOAを知っていたが、新しく出来たDODも、鮫山が言うほど酷いものではないと感じていた。


「それは…DODは新形態ですがDOAの後釜、完全に新しいと言うには弱いかもしれませんが、間違いなくDOAを受け継いだ素晴らしいグループですよ!」

「このままじゃ半年でどころか解散だな」


 マンネリ化を防ぐ為、三ヶ月に一度新しい風を吹き込むシステム"リアイドール (Re I Doll)"を導入していた。

 平たく言えば、メンバーの入れ替えだ。

 プロデューサーが"不必要"と判断したメンバーは二ヶ月目の一日いっぴに脱退するように通達がいく。

 この際に脱退が決まったメンバーをリアイドールメンバーという。


 リアイドールメンバーは残りの一ヶ月をまるでカウントダウンのように感じることだろう。刻々と迫ってくる脱退までの時を感じて活動しなくてはならないのだから。

 これはメンバーからは不評だが、ファンから金が取れるからと、極悪非道な鮫山が決めたことだった。


 バッサリと切り捨てるような発言をする鮫山に、河岸は反対する。


「そんな!彼女達は頑張ってます!ファンもそれをわかってるはずです!」

「客がそう言っても、アイツらがそう思っているかな」

「アイツらって、彼女達がですか?」

「そうだ。あんなんで満足してるようじゃまだまだだ」

「ちょっ、鮫山さん!帰るんですか⁉︎彼女達がライブを終えて帰ってきますよ⁉︎」

「煙草だ」


 鮫山は河岸とは真反対の意見を持っていた。

 DODの初ライブを観戦し、その完成度の低さに頭を抱えていたのだった。



 一方その頃ライブを終えたDODのメンバー達がステージの舞台袖で話し合っていた。


 リーダー候補だったETSUエツはなんの障害もなくリーダーとなった。

 彼女の持つオーラにはどこか尊厳があり、メンバーを引っ張っていくには十分のポテンシャルを持っていた。


「みんな、お疲れ様」


 リーダーとしての役割を果たし、メンバーに労いの言葉を送った。


 CUWクウはDOAを目標にこの業界に足を踏み込んだ。

 彼女達と同じ景色を見れたことに高揚感を覚える。


「DOAの初めて立ったステージで踊れるなんて…サイコー…!」


 ライブ経験のあるAYEアイも自身のグループの質の高いパフォーマンスに満足しているようだ。


「楽しかった!私、これをやる為にここに入ったんだって、すっごい実感出来た!」


 KOHコーはオーディションの時から変わらずマイペースで、成功という結果は特に気に留めていないようだ。


「まだこれからでしょ。てかプロデューサーんとこ行くのダルくね?説教でもされんの?」


 不満タラタラのKOHにAYEは問う。


「KOH、楽しくなかったのー?」

「楽しいよ。楽しいけどそれ以前にあたし達はこれが仕事なんだ。やらなきゃいけないんだよ」

「あはっ♪さりげにDO OR DOのコンセプト掲げちゃって、KOHも意外とDOD好きだよね〜」

「意外とってなんだ。ま、そこらの甘ちゃん候補生よりかはこのグループのこと愛してるぜ」


 二人の絡みにCUWも笑顔になる。


「みんな頑張ってたよ。だから私達もそれを背負ってこの活動を続けなきゃ!」

「あーそうだな」


 しかしリーダーのETSUは不満そうな顔でスッパリと言った。


「先が思いやられるな」

「「え?」」


 一人ひとりの顔を睨み、それぞれ名指しでライブの改善点を指摘する。


「まずCUW。ダンスは及第点だけど歌詞を間違えすぎ。ダンスに集中しすぎておざなりになってる」

「ご、ごめん…」

「AYE。観客にサービスをしすぎ。DODは媚びたアイドルグループじゃない。DOAのパフォーマンスを見て何を学んだの?」

「…うん」

「KOH…」


 KOHは聞くことなく、パンパンと手を叩いて話を断つ。


「はいはい、お説教は終わり終わり。初ライブなんだからいいじゃねえか。リーダーさんよ」

「……」


 ETSUは怒ったのか顔をしかめてどこかへ行った。

 AYEが呼び止めるも、ETSUの足は止まらなかった。


「ETSUっ…行っちゃった」


 KOHは清々したと言わんばかりに振る舞った。


「いいんだよ。せっかく気持ちよくライブ出来たのにグチグチ言われんのはごめんだ。プロデューサーんとこ行こうぜ」


 KOHはスタスタと楽屋の方へと向かって行った。

 CUWとAYEは顔を見合わせて、不安そうに、彼女の後を追って歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る