第43話 すでに心は決まっている

「えっ? 何のことでしょうか?」


方丈は恐る恐る喜代次にたずねた。


「これお前だよな?」


 喜代次は方丈の前に一枚の紙を出した。


 そこには方丈と片岡エイミーが並んで写っていた。


 これは間違いなく、先日、バー・トロピカルに行った帰りに撮られたものだ。


「はい」


「長男の天音が週刊誌の記者に話を聞かれた時、お前たちも現場にいた。そして、次男が事故を起こした時、お前の部下の秋田が現場にいた。そして、三男が刺されるきっかけになった飲み屋にも、なぜかお前が行っている。間違いないな?」


「ええ。残念ながら」


「何を企んでいる? 教団の壊滅か?」


「まさか。そんな大それたこと、出来ませんよ」


 方丈はとりあえず否定した。


「銃はどこにある?」


「えっ?」


「あれもお前たちの仕業だろう?」


「違います。銃をハンドメイドする技術、俺にはありませんよ。それにいつ暴発するか分からない銃なんて絶対に使用しません」


 方丈は素直な気持ちを述べた。


「まあ、普通はそうだな」


 喜代次は、この話には納得してくれたようだ。


「今、教団内で何をやっているんだ?」


 喜代次がまた話しづらい話題を振って来た。


「ボディガードをしています」


「誰の?」


「長女の莉凛さんです」


「お前、すごいな。着実に教団を仕留めにいっているな」


「違いますよ。俺自ら志願したわけじゃないんです。向こうから頼まれたんです」


「そう仕向けている所がすごいんだよ。それで、ボディガードとして、どこにお供するんだ?」


「今、決まっているのは、土曜日に駅裏で行われる自由憲政党の街頭演説だけです」


「そうか。じゃあ、俺たちはその時、お前が何か問題を起こさないか、しっかり見張っているからな。忘れるなよ」


「起こしませんし、起こす気もありません」


「分かった。そういうことにしておいてやる。行くぞ」


 喜代次は部下を連れて、事務所を出て行った。


 方丈は深いため息をついた。


「完全に、俺たちが裏でやっていると疑っていましたね」


 秋田が口を開いた。


「ああ。でも、仕方ないな。銃撃事件以外、現場、もしくは関係している所にいたからな」


「改めて思ったんだけど、偶然かな?」


 一海が聞いて来た。


「偶然にしては出来すぎだな。おそらく事件を起こしている犯人も教団を潰したいと思っているから、同じ目的の俺たちとたまたまタイミングが合っているんだと思う」


「となると、厄介ですね。そいつの罪を俺たちが被ることになるかもしれませんから」


 秋田が顔をしかめながら言った。


「ああ。気をつけて行動しないとな」


「ところでさあ、教団に鉄砲撃ったの、本当に二人じゃないの?」


 一海が好奇心あふれる表情を作り聞いて来た。


「そんなことするわけないだろう」


 二人はすぐに否定した。


「いいか。手作りの銃なんて、いつ暴発するか分からないんだぞ? もし暴発したら指は吹っ飛ぶし、下手したら死ぬんだからな」


 方丈がしっかり一海に理由を伝えた。


「だったら、犯人はそうなっても構わないと思って、ぶっ放しているのね」


「まあ、そういう事になるな」


「面倒くさいわね。そんな人を相手にしなきゃいけないなんて」


 確かに。


 俺は覚悟が完全に決まっている人間から、莉凛を守らないといけないのか。


 一海の言葉を聞いて、方丈は状況を少し甘く見ていた自分に気がついた。




 金曜日の朝、下山はいつも通り、勤め先である小石川倉庫に出勤した。


 昨日の夜、ついに上田から決行日を知らせるメッセージが届いた。


 ついに俺がこの世に生を受けた理由を証明する日が来た。


 下山の心は、使命感と生の充足感で溢れていた。


「おはようございます」


 更衣室で作業着に着替えていると、上田がドアから入って来た。


「しもやん。メッセージ読んだ?」


 上田がそばにきて話しかけて来た。


「ああ」


「心に変わりはない?」


「もちろん」


 下山は自信を持って答えた。


「じゃあ、今晩、飲みに行く?」


「いや、いい。明日、万全の状態で臨みたいから」


「そうか。分かった」


 着替え終わった下山は、先に更衣室を出た。

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