第42話 犯人はあいつらだ

 小石川倉庫に勤めている上田浩勝は、仕事が終わった後、郊外にある廃ビルに足を運んだ。


 ビルの敷地内に車を停め、廃ビルの中でしばらく待っていると、車のエンジン音と共にヘッドライトの光がビルの中に入ってきた。


 待ち合わせていた連絡係が来たようだ。


「よう、お待たせ」


 廃ビルに入ってきたのは、あじさい土木の長瀬だった。


「下山は、いまどんな状態だ?」


 長瀬が聞いて来た。


「反省して静かにしてる。前も言ったが、決行までもう無茶はしない」


「なぜ、そう言いきれる?」


「あいつはきちんと約束を守る男だ。不器用だが、一度やらないと決めたらやらない」


 上田はポケットに手を入れ、中からSDカードを取り出した。


「言われた通り、あいつとのやり取りは全て録音しておいた」


「ああ、ご苦労」


 長瀬はSDカードを受け取り、ポケットの中にしまった。


「それよりも俺の報酬はどうなっている? 金と高跳びの準備はできてるんだろうな?」


「安心しろ。きちんと用意してある。手持ちの金と旅券は当日ここに置いておく。残りの金は仮想通貨で振り込んでやる。心配するな」


 長瀬は少し迷惑そうに、上田に答えた。


「分かった。あと西原をいつ殺すか、決まったのか?」


「ああ。土曜日の11時から行われる駅裏の街頭演説の時に実行しろ」


「えっ? その日に西原の応援演説の予定はあったか?」


「いや、ない。急遽、そこでやってもらうよう、こちらで仕向けた。警備も手薄になるから、その方がいいだろう?」


「ああ。じゃあ下山に、土曜日の11時に決行するよう伝えておく」




 下平由佳の取り調べが終わり、矢上と喜代次が捜査本部で調書を書いていると、地元の警察署に勤める深海が、缶コーヒを持って二人のもとにやって来た。


「お疲れさまです」


 深海は秋田と喜代次の前にそれぞれ缶コーヒを置いた。


「お疲れ様です。ご馳走様です」


 二人は深海にお礼を言った。


「被疑者の様子はどうでした?」


「こっちが驚くくらい冷静で、聞いたことは全て答えてくれた。あとは裏付けして終了」


 喜代次が缶コーヒーの蓋を開けながら答えた。


「銃撃事件との繋がりはなかったんですか?」


「全くなし。ただの愛情のもつれ」


「そうでしたか」


 深海は釈然としない表情を浮かべ言った。


「深海さんは、何か気になる事があるんですか?」


 矢上が質問した。


「ええ。偶然にしては事件が重なり過ぎていません? この短い間に長男の会社では不正が発覚し、次男はスケートボードの事故で入院中。三男は刺されて、父親は銃撃される。これって偶然ですかね?」


「確かに、その点は気になりますよね」


 実は矢上も同じ感想を持っていた。


 だが、それらを結びつける証拠は、今のところ何もなかった。


「俺、上司の指示でバー・トロピカル周辺の監視カメラ映像を見ていたんですが、竹本莉凛の秘書も男を連れてその店に来ていたんです。これも偶然ですかね?」


「えっ?」


 喜代次と矢上の口から自然と声が出た。


「深海さん。その映像、見せて」


 喜代次が深海にお願いした。


「ええ。もちろん」


 三人はすぐさま監視カメラ映像が見られる、パソコンの前に移動した。


「ちょっと待ってください。すぐに出しますから」


 深海がパソコンを操作すると、モニターに秘書の片岡エイミーと、公民館の駐車場で会った探偵の方丈の姿が映し出された。


 その映像を見た喜代次はすぐに机に戻り、何かの資料に目を通し始めた。


 何の資料を見ているのか矢上が後ろから覗き込むと、それは次男の来紀がスケートボードの事故で怪我をした時、証言を取った人物のリストだった。


 今回殺人未遂事件が起きたことで、教団は次男の事故のことも警察に伝えてきた。


 それを受け、警察は事件性がないか、一応関係者から話を聞いていた。


「深海さん。やっぱり偶然じゃないですよ」


 喜代次は確信に満ちた表情をつくり言った。




 その頃、方丈は事務所にて仲間たちと共に今後の作戦について話し合っていた。


「何か、えらいことになってきましたね」


 秋田がスナック菓子を飲み込み、口を開いた。


「ああ。流石に立て続けに事件が起きすぎだよな」


 方丈はスナック菓子に手を伸ばしながら言った。


「呪われてるんじゃない?」


 一海が好奇心あふれる笑顔を作り言った。


「教団がか? まあ、今までのことを考えれば、呪われても仕方ないか」


 方丈の素直な感想だった。


「でも、これからどうします? このまま潜入作戦を続けます?」


 秋田が聞いて来た。


「もちろん。別に俺たち悪いことしてないからな」


「でも、順番から言って、あと不幸な目にあってないのは、長女の莉凛だけですよね? 方丈さん、彼女のボディガードでしょう? 不味くないですか?」


「まあな」


「今度はいつ彼女と会うの?」


 一海が聞いて来た。


「土曜日。西原議員も来る応援演説があるから、その時にいて欲しいって言われた。教団の信者も駆けつけるらしい」


「ああ、サクラですね」


 秋田がそう口にした次の瞬間、事務所のドアが勢いよく開き、N県警の喜代次が部下を引き連れ中に入って来た。


「お前ら、やってくれたな」


 開口一番、喜代次は方丈たちを怒鳴りつけたきた。

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