第38話 この事故は……?

 来紀が運ばれた後、スタジオに残されたメンバーは、みな呆然としていた。


「やっぱり、ヘルメットなしにやるべきでなかったんだ」


 突然、長濱が叫んだ。


 思いを吐き出さないと、心が潰れそうになったのだろう。


 そのくらい、現場には重苦しい空気が漂っていた。


 秋田は手すりに近づき、外れた部分を見に行った。


「秋田君。何か気になることでもあるの?」


 和香菜が秋田の隣に来て、口を開いた。


「いえ。ただ偶発的事故なのか、ちょっと確認したかったので」


「偶発的じゃなかったら、何だというの?」


 和香菜が少し語気を強めて言った。


 そういえば、彼女は昨日、このセクションを担当していた。


「ここを見てください。ジョイント金具がボッキリ折れています。初めから部品に欠陥があったんです」


「じゃあ、事故は偶然ってこと?」


「その可能性が高いですね」


 ですが、この不良部品が最初から意図して用意されたものなら、話は違って来ますが。


 そう繋げたかったが、秋田は気を使い、口をつぐんだ。


「そう」


 和香菜が少しほっとした表情を作り言った。


「それよりも、来紀さんのことまだ本部に伝えてませんよね? マスコミ対応も必要になるかもしれないので、すぐに伝えた方がいいのでは?」


「そうね。すぐに電話するわ」


 和香菜はスマートフォンを取り出し、電話をかけ始めた。




 来紀が目を開けると、白い天井が視界に入ってきた。


 ここはどこだ? 


 まわりを見ると、すぐ側に心拍数を知らせる機械があり、左腕に点滴が付いていた。


 ここは病院か。


「あっ、先生。患者さんが目を覚ましました」


 看護師と思われる女性が視界に入り、すぐに消えていった。


 そして、数十秒後、来紀の前に40歳くらいの白衣を着た男性が現れた。


「今さん。私の声が聞こえますか?」


 医者と思われる男性が、来紀に話しかけて来た。


「はい。聞こえます」


「このライトを目で追ってください」


 言われた通り、来紀はペンライトの光を目で追った。


「今日の日付は、覚えてますか?」


「日付? 日付は、覚えてませんが、たしか曜日は水曜日だったと思います」


「では、ここに運ばれる前、何をしていたか覚えていますか?」


「ここに来る前は……覚えてません」


「あなたはスケートボードに乗っていて階段から落ち、頭を打つ怪我をしたんです」


「ああ」


 ここに運ばれる前の映像が、うっすらと頭の中に浮かんだ。


「俺は今、どんな状態なんですか?」


 来紀は医者にたずねた。


「命に別状はありませんが、頭蓋骨に少しヒビが入り、左足を骨折しています。幸い、脳に障害が出た痕跡はありません。あとは擦り傷と打撲が複数カ所見受けられます」


「分かりました。ありがとうございます」


 命に別状がないことが分かり、来紀は少し安心した。

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