第37話 彼は用済み

 あじさい土木の西田は、莉凛との会食が終わった後、部下の長瀬が運転する車で郊外にある廃ビルに足を運んだ。


 正面に車を停め、西田がビルの中に入ると、暗闇から声が聞こえた。


「お疲れ様です」


 声が聞こえた方向に灯を照らすと、そこには明日の未来建設の古賀の姿があった。


「お疲れ様です、古賀さん。すぐにこの場所が分かりましたか?」


「ええ」


「前は会社で話をしていて聞かれてしまいましたからね。ここなら何を話しても大丈夫でしょう」


「同感です。竹本莉凛の様子はどうでした?」


 古賀は早速、会食のことについて聞いて来た。


「本部が銃撃されたのに、全く気にしている様子はありませんでした」


「やはり、彼らは図太いですね」


「ええ」


「下山の様子はどうですか?」


「反省しているそうです。これ以上、無茶はしないと上田は見ています」


「そうですか。ですが、不安ですね。決行日まで上田に下山とのやり取りを全て録音させ、こちらに提出してもらいましょう」


「分かりました。そのように手配します。ところで決行日は決まりましたか?」


 西田は古賀にたずねた。


「調整中です。決まり次第、すぐに連絡します」


「分かりました」


「あっ、そうそう。上田は銃を作っている最中、近所の人に顔を見られたと言ってましたよね?」


「はい」


「色々と面倒なことになるかもしれないので、彼には消えてもらいましょう」


 古賀は少しもためらうことなく、上田を始末する事を提案してきた。




 次の日の午後、秋田は来紀の撮影を手伝うためスタジオに向かった。


「お疲れ様です」


 秋田があいさつをすると、みな各々言葉を返してくれた。


「おう、秋田」


 モニターの前にいた来紀が口を開いた。


「お疲れ様です。撮影はどこまで進んだんですか?」


「あとは、手すりの上を滑り降りるセクションだけだ」


「えっ。そんなに進んだんですか?」


「ああ。あまりに順調に進みすぎて、俺も驚いている。勝敏、撮影した動画をもう一度、見せてくれ」


「分かりました」


 長濱がパソコンをいじると、正面のモニターにスケートボードに乗った来紀の姿が映し出された。


 モニターの来紀は、まず勢いよく坂を下り、階段を一気に飛び降りた。


 続けてパンプと呼ばれる小さな丘を渡り、湾曲しているコースを華麗に旋回した。


 その後は高台の上にあがり、そこから勢いよく滑り降りて180度の回転ジャンプを決めた所で、映像は終了した。


「すごい迫力ですね」


 秋田は素直な感想を述べた。


「だろう」


 来紀は得意気な表情を作り言った。


「でも、来紀さん。ヘルメットしなくていいんですか?」


「ああ。それなんだけど、最初にヘルメットをして撮影したら、映像的になんか迫力に欠ける部分があってね。それでするのを止めたんだ」


「そうだったんですか」


「じゃあ、そろそろ最後のシーンを撮るか」


 来紀が隣に座っていた長濱に話しかけた。


「分かりました。みんな、最後の撮影に入るよ」


 長濱は立ち上がり皆に呼びかけた。


 スタッフたちはすぐに動き始め、それぞれ所定の位置についた。


 最後のシーンは、来紀が助走をつけて階段の手すりの上を滑り降りるシーンだ。


 手すりは当初予定していた長さよりも長く、傾斜もきつくなっていた。


「来紀さん。準備ができました。いつでもどうぞ」


 長濱が口を開いた。


「OK。じゃあ、行くぞ」


 来紀は助走をつけて、手すりの上に飛び乗った。


 勢いよく滑り降り、ちょうどコースの真ん中あたりに来たところで、突然、手すりが外れた。


 来紀の体は勢いよく宙に舞い、階段に打ち付けられた。


「来紀さん」


 皆、すぐに来紀のそばに駆け寄った。


 来紀は頭から血を流しており、意識が朦朧としていた。


「救急車を呼びます」


 妹尾がスマートフォンを取り出し、電話をかけた。


 その間、秋田は近くにあったタオルで来紀の頭を押さえて、止血に努めた。


 救急車はすぐにやって来た。


 来紀は妹尾に付き添われ病院に運ばれた。


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