第111話 みずほはカナヅチ

 みずほはプールに来てから、泳ぐ気配を全く見せなかった。


「みずほさん、泳がないの?」


 質問を投げかけると、みずほの顔は赤く染まった。


「私はカナヅチなんだ。顔を水につけることも難しい」


 男子顔負けの運動能力を持つ女性が、まったく泳げないだけでなく、水に顔すら付けられないなんて。みずほに対して、新しいイメージが埋め込まれた。


「勝君は泳げるの?」


「25メートルくらいなら・・・・・・」


 小、中学校の授業を受けて、25メートルを泳げるようになった。


「勝君、泳ぎ方を教えてほしいんだけど・・・・・・」


「僕に教えられるかはわからないよ。他人にレクチャーできるほどの技術はないと思っている」


「勝君の力を借りて、泳げるようになりたいの。力を貸してほしい」


 みずほの目は真剣そのもの。本気で泳げるようになりたいと思っているようだ。


「力になれないかもしれないけど、やれる限りのことはやってみるよ」


「勝君、ありがとう・・・・・・」


*1時間経過


 みずほは練習をするも、上達の気配を見せなかった。


「全然ダメみたいだね・・・・・・」


「練習を繰り返したら、必ず泳げるようになるよ。焦らずにゆっくりとやっていこう」


「そうだね。すぐにはうまくなれないよね・・・・・・」


 練習しているときに感じたのは、頭をつけるのを極度に怖がっていること。水に対して、トラウマを持っているかのようだ。


 みずほは小さな息を吐いた。


「続きのレクチャーは、お姉ちゃんにやってもらうから。勝君、付き合ってくれてありがとう・・・・・・」


 みずほがプールからあがると、勝も同じようにプールからあがった。


「勝君、手をつないでほしいんだけど・・・・・・」


「あ、うん・・・・・・」


 みずほと手をつなぐ。千鶴のときにはあった、高揚感は感じられなかった。


「手をつないでいるだけで、心の中は手に取るようにわかるね・・・・・・」


「みずほさん・・・・・・」


「本気で好きになった女の子を大切にしてあげてね・・・・・・」


「・・・・・・」


 みずほの頬に、水しぶきがかかった。


「いろいろとありがとう。私にとってはすごくいい一日だった」


 みずほと最初にデートしていたら、好感度は変わっていたのか。不器用な男には、答えを導き出すことはできなかった。











  



 




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